【小林千寿・碁縁旅人】#13 競馬「凱旋門賞」

セレブなパリの日曜日

毎年10月第1日曜日にパリ・ロンシャン競馬場で開催される凱旋門賞。1920年に始まり、今年で100回目を迎えました。
実はパリに住んでいた2009年、「凱旋門賞」観戦の招待を突然受けたのです。あまりにも急なお誘いで何を着ていけば良いのか。まず思い付いたのが、つばの広い帽子。前日の土曜日にパリ市内のデパート巡りをしても見つからず、何とお土産売り場で見栄えのする帽子を見つけ、それに洋服の色に合わせたグリーンの花のコサージュを付け、いざ出陣。
競馬場なるものは生まれて初めてで、見るもの全てに興味津々。映画、ニュースで見たことがある華やかな雰囲気でした。いかにも上流階級のマダムと見受けられる皆さんの間を通り抜け、辿(たど)り着いたのはロイヤルボックス。それも指定された席はスポンサー(カタール競馬馬事クラブ)の隣。そのテーブルに居(お)られるのは錚々(そうそう)たる方々ばかりで、かなり緊張しました。
テーブルでは前座のホースレースを観戦しながらシャンパン、ワインを飲みながらフルコース。少し会話が進んだところで当然のように、やんわりと「あなたは何をする方?」と聞かれ、「囲碁のプロ棋士です」と伝えると、その中に日本に勤務経験のあるフランス人が居られ、「東洋のステータスのある知的ゲームである」と補足していただいたので助かりました。
すると即座に「勝負師ならば、どの馬を薦める?」と聞かれ、何も予備知識のない私は、ジョッキーのユニホームの色が私の勝負色の黄色だったので、その馬を薦めました。
全くの偶然ですが、その馬が1番人気で優勝!「さすが、プロだね~」と褒められ、日本のプロ棋士のプライドを保ちました。
その後に外の席に出て優勝馬のセレモニーを見学しましたが、豪勢なものでした。パリのセレブな日曜日の午後の思い出です。
(日本棋院・棋士六段、松本市出身)