【記者兼農家のUターンto農】#49 土の皇帝

世界で一番の肥沃さ誇る

「皇帝」と呼ばれる土の種類がある。チェルノーゼム。ロシア語で「黒い土」という意味だ。
一般に土が黒いのは腐植のおかげ。「腐った植物」、つまり、分解された落ち葉や枯れ草であり、動物の死骸やふんなども入っている。チェルノーゼムは、この腐植をたっぷり含んでいる。
日本の黒ボク土も、見た目にたがわず、腐植が多い。だが、耕作には酸性に傾いているのがネックで、対策が欠かせない。
チェルノーゼムは、酸性でもアルカリ性でもなく、中性だ。土壌学者、藤井一至(かずみち)さんの「土地球最後のナゾ」(2018年、光文社新書)によると、絶妙な雨量のおかげだといい、「小さな奇跡だ」と評されている。
作物を育てやすい条件が整っていて、世界で一番の肥沃(ひよく)さを誇る。皇帝と言われるゆえんだ。
残念ながら、日本にはない。中信にも多い黒ボク土は当てはまらず、うちの実家の田畑の褐色低地土は、文字通り、それほど黒くない。赤土もしかり。
では、どこにあるのか。ウクライナだ。ユーラシア大陸の中央部は、北米と並ぶチェルノーゼムの集積地で、なかでもウクライナには世界の3割が集まっているという。この国が有数の穀倉地帯となれるわけだ。
藤井さんの著書では、豊かな土壌が「ロシアやドイツの標的となり続けてきた」と指摘されている。第2次世界大戦中にドイツ軍がウクライナのチェルノーゼムを貨車に積んで持ち帰ろうとしたこともあるという。
そこまでするのは、土は本質的に作れないからだ。岩石が風化したり、火山灰が降ったりしたところに腐植が絡んでいく。土地の気象、地形、植生に応じ、表土が1センチできるのに100年かかるともいう。地域と土壌は分かち難く、「国土」とはよく言ったものだ。
実家の耕作で皇帝の威光は望むべくもない。田舎侍に合った工夫を重ねていこう。