万葉集の草花 長峰山散策
「秋の野に咲きたる花を指折(およびを)りかき数ふれば七種(ななくさ)の花」。万葉集に収められた山上憶良の歌だ。屋外の散策が気持ちのいい季節。安曇野市豊科郷土博物館学芸員の松田貴子さん(52)の案内で、同市明科の長峰山に「秋の七草」探しに出かけた。
のんびり爽やかな風に吹かれ
憶良は、先の句に続き「萩の花尾花葛(くず)花瞿麦(なでしこ)の花女郎花(おみなえし)また藤袴(ふじばかま)朝貌(あさがお)の花」と詠み、秋の七種(七草)の花を挙げている。尾花はススキのこと。朝貌は桔梗(ききょう)であることが定説となっている。
長峰山(標高934メートル)は山頂に駐車場があり、気軽に楽しめる里山。地元のNPO法人「森倶楽部(くらぶ)21」によって整備され、多様な生き物が暮らす森だ。松田さんは同法人のメンバーでもある。
今回の七草探しは、車道が山頂駐車場方面と森林体験交流センター天平の森方面に分かれる場所からスタートした。
まず見つけたのは、車道沿いの斜面に咲くクズ。薬用や食用に大活躍の植物だ。花に顔を近づけるとほのかに甘い香りがする。
そこから山頂に向かって遊歩道をしばらく登ると、ススキの草原が現れた。「蝶(チョウ)の森」の看板が立つ。ここにはマルバハギもかわいらしく咲いていた。「ハギは万葉集の中で一番数多く登場する花なんですよ」と松田さん。
安曇野の絶景が眼下に広がる山頂の草原に着くと、ススキの間にオミナエシがひょこひょこと顔を出している。生育環境の変化や園芸用としての採取により数が減り、同市のレッドリスト種になっているという。近くには白いオトコエシの姿も。
秋の爽やかな風に吹かれながらのんびり歩くと、カワラナデシコに巡り会えた。前日までの雨露が花に残り、花言葉の通りなんともかれんだった。
絶滅危惧種のフジバカマとキキョウは見ることができなかったが、フジバカマの仲間であるヒヨドリバナは長峰山に生育しているという。
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野に出て秋の七草をめでる、それは豊かな自然環境が守られているからこその楽しみだ。里山に人の手が入らなくなった今、それはぜいたくな野遊びともいえる。
散策中、ワレモコウやマツムシソウなど、さまざまな野草を楽しめたほか、色とりどりのチョウが舞い、秋の虫が鳴いていた。豊かな生命に触れたくなったらまた足を運びたい。