【小林千寿・碁縁旅人】#39 チョコレート

チョコレート店が多いジュネーブの店頭に飾られた大きなチョコレートの鍋

急に底冷えする寒い日が続き、冬の到来を感じます。
寒くなると、パリに住んでいた頃の楽しみ「ショコラショー」(ホットチョコレート)が無性に恋しくなります。ココアと違ってチョコレートを、そのまま溶かした甘いドロドロの飲み物です。
私のお気に入りはシャンゼリゼ通りに面している有名な老舗カフェ「フーケッツ」の隣にあるホテル・フーケッツの2階にあるカフェのもの。北緯48度のパリ(日本最北端の宗谷岬は45・31度)の朝日が昇るのは遅く、まだパリの街が眠っている寒い早朝にカフェで熱~いショコラショーとクロワッサンを食べる朝食は贅沢(ぜいたく)な時間でした。
ところで、このチョコレート、今では世界中どこでも食べられますが、歴史は古いです。原料となるカカオは紀元前2000年ごろから今のメキシコ、中央アメリカ界隈(かいわい)で栽培され、16世紀初頭にコロンブスがスペインに持ち帰り、17世紀に欧州の王室の結婚に伴い、一気に王族貴族の贅沢品として広がったそうです。そして18世紀の産業革命からチョコレートも進化し、世界中に広がります。
その後、19世紀スイスで、それまでの苦いチョコレートにミルクを混ぜ合わせることに成功。私たちがどこでも食べられる今のチョコレートになります。
そのスイス・ジュネーブでは11月になると、店頭にチョコレートで作った大きな鍋「マルミット」が所狭しと飾られます。
それは12月に行われるお祭り「エスカラード」のためです。400年前に敵兵が壁をよじ登ってきたのに気づいたおばあさんが「火事場のばか力」でスープ鍋をひっくり返して退治しました。それを祝って今は、スープ鍋を模(かたど)ったチョコレートを飾り、各家庭で割って食べます。
その数日は、日頃は静かなジュネーブの街も当時の衣装を纏(まと)った人々のパレードなどで賑(にぎ)わいます。本当に素朴なお祭りですが、スイス人気質を感じられます。
(日本棋院・棋士六段、松本市出身)