【野遊びのススメ】#40 「塩の道」の難所・大網峠 歴史ある山道を行く

歩荷や牛に思いはせながら

新潟県糸魚川と松本地方を結ぶ全長約120キロの交易の道「千国(ちくに)街道」、通称「塩の道」。古くは新潟方面から塩や海産物などを、松本方面からは麻やたばこなどが運ばれた。晩秋の晴天の日、この道随一の難所といわれる小谷村と糸魚川市をつなぐ大網(おあみ)峠(約10キロ)を歩いた。
JR大糸線平岩駅から、地図と道標を頼りにスタート。かつて宿場としてにぎわった大網地区集落の舗装された道を通り抜けると、早々に山道に変わった。道沿いには石碑や地蔵が並び、今日の旅人も見守ってくれているようで心強かった。
塩の道唯一のつり橋を渡る。高所恐怖症でなくても足がすくむ横川の渓谷に架かり、昭和以前は丸太を渡しただけの橋だったという。その姿を想像するとさらに恐くなった。
つり橋を過ぎると、標高約840メートルの大網峠まで、約3キロ上りが続く。上流から岩間を流れ落ちる滝を横目に、何度か沢を横切り、緑に囲まれた山道をひたすら登る。
岩盤にくぼみが残る「牛の水飲み場」が現れた。重い荷物を背負った歩荷(ぼっか)や牛は、この水のおかげで急峻(きゅうしゅん)な坂を乗り切れたのだろうか―。
上り坂の後半はブナやトチなどの原生林が続く。巨木に包まれながら歩いていると、疲れも吹き飛んだ。
大網峠を越すと、今回のゴール山口関所跡までは下り坂。塩の道を舞台にした伝説「牛方(うしかた)と山姥(やまんば)」が残る角間池が現れ、背後の駒ケ岳、鬼ケ面(おにがつら)山、鋸岳の姿に圧倒された。
日本海が見え、越境した充実感に浸っていると、目の前にニホンカモシカが!。歩き始めて約4時間、平日のためか、人を含めて初めて出会った動物だ。静かに道を譲ってくれたことに感謝した。
塩の道はこれまで小学生のわが子と断続的に歩いてきたが、今回の大網峠越えは立派な登山だった。かつては1人で約50キロの塩1俵、牛は2俵を背負って歩いたという。

【塩の道~大網峠越え】歩いて楽しめるのは、融雪した6月ごろから降雪する11月下旬ごろまで。現在、小谷村の牧坂から荷換(にかえ)之峰の間は土砂崩れで通行できず、迂回(うかい)する必要がある。最新の道の状況や出発地点へのアクセス方法、村内を通る各コースの紹介などは小谷村観光連盟のウェブサイトで。