【小林千寿・碁縁旅人】#42 世界で音楽を聴く

私のお気に入りのニューイヤーコンサートが開かれることで有名なウィーン楽友協会ゴールデンホール

年末年始になると優雅な音楽が聴きたくなります。
私がクラシック音楽を真剣に聴き始めたのはプロ棋士になり1人暮らしを始めた21歳の頃です。囲碁の勉強が捗(はかど)る音楽をいろいろと探し始め、「バッハ」と「グレゴリオ聖歌」に至りました。
それをきっかけに、ニューヨークで数カ月間、囲碁指導をしていた時にユル・ブリンナーの「王様と私」を観(み)てミュージカルの楽しさに目覚め、幾つか行きました。
同じ演目でもサンフランシスコで鑑賞した「キャッツ」は涙が自然と出ましたが、パリの公演では「人生が明るい!」と苦労を笑い飛ばすようなエネルギーがあって、国によって解釈が随分違うと気づかされました。
欧州囲碁普及でウィーン、パリに住んでいた時は、機会をみつけて教会のオルガン、オペラのコンサートに行ったものです。
イタリア・ベローナの大きなコロシアムで真夏に観たオペラ「アイーダ」は5時間ほどの長い舞台の上、真夏でも寒い夜だったので、休憩時間に外のカフェに出てホット・チョコレートを飲んで凌(しの)ぎました。本物の動物の行進もあり、音楽的というより話の種には良い舞台でしょうか。
またバブル絶頂期の日本では有名音楽家の演奏会も多く賑(にぎ)やかでした。
1996(平成8)年6月の朝、一本の夢のような電話がありました。それはその日の夕方に東京・国立競技場である3大テノール(ルチアーノ・パバロッティ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス)のコンサートを聴いて感想を新聞記事に書くという素晴らしい依頼だったのです。
その後、敷居が高かったピアノ演奏も聴く機会に恵まれました。同じ曲、同じピアノでも弾き手が違うと、こんなにも変わるのかと驚かされます。
最近、戦火にあるウクライナ・キーウの国立歌劇場で公演が続けられていると知りました。
今年も心配事が増え、大変な年でした。来年は世界が平和になり健康な年でありますよう願います。
(日本棋院・棋士六段、松本市出身)