【記者兼農家のUターンto農】#119 真夏日の稲刈り

猛暑で前倒し 休憩はスイカで

真夏日の稲刈りだった。
うちでは、10アールほどをバインダーで刈り取り、はぜ掛けしている。その日が例年より1週間余り前倒しになった。猛暑のせいで稲穂が早く熟したのだ。
9月半ば、まだ暑かった。バインダーを操作して歩くと、すぐにのどが渇く。
休憩でスイカが出てきたのには驚いた。自家栽培の今年最後の玉だという。稲刈りのおやつといえばナシが定番なのに。夏を代表する食べ物が収穫の秋を象徴する日に出てきて、うれしいより、げんなりしてしまった。ただ、赤い果肉は歯応えも甘みもなくて、かえってほっとした。
夕方のはぜ掛け作業の友が大相撲秋場所のラジオ中継なのはいつも通りだ。でも、15日のうちの佳境(かきょう)ではなくて序盤なのはいつもと違う。ついでに、御嶽海の出番が去年より1時間ばかり早い。強い日差しに季節感はますます狂う。
心配なのはコメの出来だ。稲穂はいつも通り垂れているように見えるが、稲束を持つと軽めにも感じる。でも、脱穀すると、まずまずの量がとれていた。
「収量は平年並みだと思う」と話してくれたのは、農事組合法人サウス(松本市神林)の村上正彦代表(72)だ。35ヘクタールを耕作し、うち19ヘクタールで水稲を作っている。やはり暑さで稲刈りが4、5日早まった。量は心配していないが、米粒が細めだと感じるという。
全国の中でもひどい暑さや水不足に見舞われた新潟県内では、質への影響が顕著なようだ。品質検査で1等米の割合が激減したと報じられている。
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」に、日照りの時は涙を流す─の一節がある。だが、その時代から農業技術は格段に進歩した。稲作で、冷夏の怖さに覚えはあるが、暑さが悪さをする印象はなかった。
その認識を覆すような隣県の現況だ。「冷涼な信州」も安穏としていられないのかも。先祖たちが涙を流した頃から90年、今夏が例外だと願わずにいられない。