【ブドウ畑に吹く風~記者のワイン造り体験記】#11 収穫の秋

一房の判断が味を決める

記録的な残暑が続いた9月。ブドウの成熟も早まり、ナイアガラなどの品種で初旬から、醸造用のヴィニフェラ種でも中旬頃からと例年よりかなり早く、待ちに待った収穫の秋がスタートした。
高温少雨で収量、質ともに良い出来との報告も多く、「ビッグビンテージ=当たり年」に期待がかかる。一方で土壌によっては厳しい所もあったようだ。
松本市笹賀のガクファーム&ワイナリーでは、9月中旬から赤ワイン用のピノ・ノワール、シラー、メルローなどを順次収穫。ほぼ同時に仕込み(醸造)も始まり、オーナーの古林利明さんは連日、収穫と仕込みを繰り返す「怒とうの日々」を過ごした。この時季、喜びと忙しさは表裏一体だ。
10月に入ると昼夜の寒暖差が大きくなり、収穫も終盤戦。「ワインの味を左右する収穫時期決定は、いろいろな要素を勘案しながらとても悩む」と古林さん。白ワイン用ブドウの代表格シャルドネが、成熟した証しの「種をかんでパリッと割れる感じ」になったと聞き、畑に向かった。
黄色に完熟し、房が垂れ下がったシャルドネの木を前に、早速カートに座りはさみを持つ。「きりっと酸味を立てたワインにしたい」との考えで除葉していない(房に光を当てない)ため、茂った葉を除きながら房の根元を探る。はさみに茎の硬い手応え。切り落とした10~20センチほどの房は実が詰まり、ずっしりと重い。
一房ずつ手摘みし、その場で選果もする。未熟果やしぼんだ実などを一つ一つはさみで丁寧に取り除く。
迷う実は「味を見て判断して」と言われた。ブドウの糖度は約22度、口に含むと十分に甘くおいしい。だが、未熟果が入るとワインの質が落ちるため、徹底して良い果実のみを厳選する。全てはおいしいワインのため。人間の味覚が最終的な判断基準だ。
古林さん夫婦、古林さんの母親と共に、各自が一房一房と集中して向き合う、静かな時間が流れる。ブドウ収穫には大勢でにぎやかなイメージを抱いていたが、出来栄えをシビアに判断する真剣な作業だと強く感じた。
数時間でコンテナが満たされ、やっと収穫の充実感と、このブドウがワインになるという感慨が押し寄せた。