【記者兼農家のUターンto農】#95 しょうゆ造り

微生物 ビニールハウスで活躍

しょうゆをビニールハウスで熟成させる。そう聞いて驚いたのは、昨年5月のことだ。松川村で取材した有機農家、高橋克弥さん(29)が「ちょっと面白いことをやっているんです」と教えてくれた。
しょうゆ造りといえば、暗くて涼しい所というイメージがある。うちでは、みそを自家製にしているが、たるを置くのはそういう場所だ。やはり、こうじの働きを利用する発酵食品のしょうゆも同じだと思っていた。
それが、高橋さんのしょうゆだるはビニールハウスに置かれ、夏の炎天下も過ごすという。大丈夫なのか。
実際、一般的な造り方ではないということは、高橋さんも分かっている。だから「面白いこと」なのだ。「よかったら来春また来ませんか」と誘ってくれた。
その日が来た3月半ば、高橋さんの自宅を訪れると、ほんのり甘い匂いが漂っていた。高橋さんの栽培した大豆や小麦を使ってしょうゆを造っているグループが、昨年仕込んだしょうゆを瓶詰めしているさなかだった。
たるから出る液体の色はしょうゆそのものだ。味はどうか?「それがすごくおいしいの。うまみがあって」と言うのは、松永ひろみさん(47)。松川村や池田町などの仲間と10年余りビニールハウス熟成でしょうゆを造っている。「発酵はお日さまパワー。微生物がのびのび働くんじゃないかしら」
「微生物が活発に動くんです」と宮田兼任さん(74、同村)も言う。グループのリーダー的存在だ。長年、有機農業に取り組んでいて、高橋さんの師匠でもある。「微生物を生かすところはしょうゆ造りも有機農業も同じだよ」と付け加えた。
なるほどと思った。一般的には非常識とみられるようなやり方で、特徴あるものを作る。経験やこつがものをいうのも同じだろう。ここでのしょうゆ造りが、誰でもうまくできるわけではなさそうだ。
それにしても、目の前にあるしょうゆは見事。微生物とその活躍を引き出す人間の技にまた驚いた。