【記者兼農家のUターンto農】#51 徒長

種の量で伸び過ぎを防ぐ

「徒長(とちょう)」は、Uターンして初めて知った農業用語の一つだ。訓読みで解きほぐすと、「徒(いたずら)に長い」。手元の辞書には、「茎や枝が無駄に伸びること」とある。
知って、ちょっと抵抗を感じた。生き物の成長ぶりを見て、「無駄だ」「むやみやたらだ」と切って捨てる感じ。あまり使いたくないなと思った。
ただ、農家の現実に照らせば、伸び過ぎてひ弱だったり、花実に行く栄養が少なくなったりするのは困る。「みんな違って、みんないい」とは言っていられない。
4月中旬、水稲の種まきの時季になった。農協の育苗指導の資料で挙げられていたのは、やはり徒長を避けること。ポイントの一つが、種の量を多くし過ぎないことだという。なぜなのか。
植物は、光合成をするために光が必要だ。芽を出したところがライバルだらけの密状態だと、光を受けようと上へ上へと伸びる。葉っぱを増やすべき時に、背丈を伸ばすことに注力してしまう。
さらに、早く大きくなることで老化も早めに進むのだという。その結果、田んぼに植えた後にあまり成長しなくなる。苗床での生存競争に勝つことが、種もみを実らすという本来の生存戦略を損なうことになってしまう。
だから、まく種は多くしないこと。密より、むしろ疎だ。
うちの種まきの量も私が子どもの頃より少なくなった気がする。種まき機の目盛りを何度も調整した。ここで多くし過ぎたら、徒長につながるのだ。
こうしてみると、徒長は、作物が「する」のではなく、農家が「させる」ものだと分かってくる。確かに以前、「徒長しちゃったなあ」と言う父の口ぶりは残念そうだった。
伸び過ぎを非難するのではなく、育て方を後悔し、反省するという思いがこもる。「徒長」の語感の厳しさは作り手に向けられたものだとすると、いたずらに遠ざけられない。