【ブドウ畑に吹く風~記者のワイン造り体験記】#5 薬と傘

大敵の雨対策 数々の努力

ガクファーム&ワイナリー(松本市笹賀)の古林利明さんは先月、ワイナリー視察を兼ねた4年ぶりの海外旅行でイタリアを訪れた。春から秋の雨量が少ないヨーロッパ起源のワイン造りを目の当たりにし、「高温多湿な日本でワインを造る意味や難しさも、改めて感じた」と漏らす。
とはいえ日本では梅雨入り。待ったなしの現実がある。
ブドウの大敵、雨への対策は大きく二つ。まずは農薬散布。ガクファームでは、5月末から雨の時期はだいたい10日おきに、自走式の薬剤散布マシン・スピードスプレーヤーで、風のない早朝に噴霧する。雨が降ると薬剤が流されてしまうので、天気と散布のタイミングを合わせるのが難しいという。
農薬には殺菌剤と殺虫剤があり、殺菌剤は病気予防、殺虫剤は虫の発生タイミングに合わせた対症療法となる。古林さんは、殺虫剤は最小限で使う。自作の防除暦を頼りに、ブドウの成長や状況に合わせ20種類ほどの薬を使い分ける。有機栽培でも使用されるボルドー液(硫酸銅に消石灰を混ぜたもの。重金属なので使用制限あり)も使う。
もう一つの対策は、ブドウを雨から守る、雨よけの設置(レインカット)だ。畑の木を全て覆うにはコストがかかるが、かなりの病害を防げるので減農薬にもなる。古林さんはDIYで雨よけを作り、開花して結実する6月下旬に房を覆うように設置する。ワイナリーによっては、生食用のように1房ずつに紙の傘をかける所もある。
雨対策をしながら、誘引など日々の作業(キャノピー・マネジメント=樹冠管理)の中で、葉や幹に異変がないか目を光らせる。剪定(せんてい)時にヒゲを取り除いたり、病気になった葉や果実を除去し畑から持ち出したり、細かい努力が欠かせない。
病気は、葉が若くて柔らかい頃にかかりやすく、樹齢が上がっても病原菌の蓄積でかかりやすくなるのは、人間と一緒だろうか。重要なのは人間の病気と同様、早期発見、早期対処。ブドウ農家の終わりなき闘いは続く。