【ビジネスの明日】#55 Y建築設計社長・熊谷善紀さん

「そこの土地の建物は、そこに暮らす建築家が手がけるべきだ」。こう力を込めるのは、一級建築士で、Y建築設計(松本市大手)の熊谷善紀社長(50)だ。建築は、その場所の風土、気候、文化などと密接な関係があるという考えからで、自身の「地元愛」につながっている。

風土や文化大切にした建築を

松本平を中心に、一般住宅や店舗などの設計を主に手がける。最近では、同市波田に残されていた築100年を超える土蔵を、美ケ原温泉の追分屋旅館(同市里山辺)が運営するワイナリーの醸造所として移築、改修したり、塩尻市の本棟造(ほんむねづく)りの古民家を安曇野市三郷温に移築し、飲食店として改修したりするなど、「放っておいたらなくなってしまう、貴重な遺産」の再利用にも力を入れる。
さらに、「古民家は欲しい人もいれば、いらない人もいる」とし、両者のマッチングを仲介するほか、自社で松本市内の古民家を購入して、それを改修。「古民家再生」の具体例を実際につくって提案するなど、さらなる攻めの姿勢も見せる。
来年1月28日に開催予定の「松本市景観フォーラム」では、こうした取り組みを示しながら、行政や金融機関、建築関係者らによるシンポジウムを行い、より現実味のある松本市の街づくり、活性化策を模索することにしている。
最近、同社の事務所前に地下30メートルと15メートルの2本の井戸を掘った。この辺り一帯は、多くの人に知られた有名な井戸が点在しているが、あえて新たな井戸を増やした。
「井戸があればあるほど、『湧水の街』のインパクトが強くなる。地場産の野菜などを水に浸しておけば、松本らしい風景になるのでは」。これも街づくりを考えて行ったことだ。

松本市出身。子どもの頃は宇宙に憧れ、宇宙飛行士を目指したが「そう簡単になれるものではない」と気付き、「宇宙開発には建築という仕事も必要になるだろう」と、建築士の道を志した。
大学の建築学科を卒業後、大手ゼネコンに勤務。帰郷して松本市内の建築事務所で働いてから独立した。建築士としてのモットーは「(手がけるのは)犬小屋から超高層ビルまで」だ。
「何でもやる『街の建築屋さん』として、地域に根差すということだ。それには、そこで育ち、身を置いて、風土や文化などを『肌感』で感じていなければ」

【プロフィル】
くまがい・よしき 1973年、松本市出身。松本深志高から東京理科大理工学部建築学科に進学。大手ゼネコン勤務後、帰郷。2008年独立、Y建築設計を設立し社長就任。20年から「かわかみ建築設計室」の業務を引き継ぐ。