【ブドウ畑に吹く風~記者のワイン造り体験記】#16 ワインの旅立ち

完成に期待と緊張と不安と

クリスマス、お正月はワイン業界最大の需要期。国内の各ワイナリーも、2022ビンテージ(収穫年)のワインを続々と発売する時期だ。松本市のガクファーム&ワイナリーでも、オーナーの古林利明さんがテーマとする「この土地らしさ」を追求した「SEIL(ザイル)」「IMA(イマ)」の3銘柄をリリースした。
ワインは農作物のブドウから作られる。収穫年の気候を反映し、毎年異なる風味がワインの特徴であり楽しみの一つでもある。昨年は9月下旬からの雨や低温で、収穫の遅いブドウには厳しい条件となったが、ガクファームでは時間をかけて熟し、穏やかな良いワインに仕上がった。
そんな2022ビンテージのワインたち。最後にラベルを貼って、消費者の元へと送り出す。記者もラストの作業に臨んだ。
ラックに寝かせてあったワイン瓶を拭き、ポリラミネート製のキャップシールをかぶせてシーラー(機械)でぎゅっと締める。瓶を寝かせ、シール状のラベルを一枚ずつ貼る。ゴムべらで空気を抜きながらしっかり粘着させる。一つ一つ手作業で、大切に行う。
ラベルはワインの顔であり、ワイナリーやワインの個性、味をも表現する。ガクワイナリーでは、山好きな古林さんが撮りためた北アルプスの写真から、思い入れのあるものをラベルに使用。デザインや紙の質感もシックで高級感がある。
次々とラベルの付いた「製品」が並んでいく。うれしいような、手が離れて寂しいような、複雑な気持ちだ。
古林さんも「ワインのリリースは、卒業みたいなもの」と言う。栽培から醸造まで、手塩にかけてきたワインが製品となり、消費者に届く喜び。同時に、消費者に満足しておいしく飲んでもらえるか、期待と緊張と不安がごちゃまぜになった感情もあるという。
心を込めて育て、世に送り出しても、社会でしっかりやっていけるのかー。そんな親心が見え隠れして、古林さんらしいなと思わずほほ笑んでしまう。
最後に「土地のワインをその風土の中で、地元食材と共に多くの人に味わってもらえたら一番うれしい」と話す古林さん。まずは地元に住む私たちが、その恵みを享受し、誇りと喜びを持って地元ワインを楽しみたい。

(記者の体験編は完了。次回1月20日からは、個性あるワイン造りやワインを通した地域振興に取り組む人を紹介します)