悔しさバネに強く「龍の拳」勝負の年 プロボクサー高熊龍之介選手

辰(たつ)年こそ、昇竜の勢いで―。
ボクシングの全日本新人王決定戦が昨年12月23日に行われ、県内選手で初の東日本新人王になった松本ACE(エース)ボクシングジム(松本市渚2)所属の高熊龍之介選手(25、上田市)が、中日本新人王と対戦した。惜しくも判定で敗れたが、相手をダウン寸前まで追い込む見せ場をつくるなど、「爪痕は残せた」と手応えをつかんだ。
6月にプロ4年目を迎える。強くなることだけを考え、平日はほぼ毎日、上田市の職場と、松本市のジムを往復。努力を重ね、ここまで来た。
「新人王の決勝を糧に、さらに強くなり、日本ランカー入りを目指したい」と再スタートを決意。「龍の拳」は戦う気力で満ちている。

一からこつこつ ランカー入り目指す

12月23日正午東西の代表がぶつかる全日本新人王決定戦の会場、後楽園ホール(東京都)。試合開始2時間前、屋外の当日券売り場には長蛇の列ができた。
午後0時半高熊龍之介選手が、松本ACEボクシングジムの髙山祐喜会長(37)とチーフトレーナーの塚本勝弘さんが観客席から見守る中、リング上でシャドーボクシングなどをしてウオーミングアップ。終了後、リング下で記者としばし立ち話。「調子はとてもいい。絶対に勝ちます」と、力強くコメントした。
同2時第1試合のミニマム級の試合開始。会場には観客約1600人が入り、2階ベランダの立ち見席で観戦する人も。
同2時25分第2試合のライトフライ級の試合開始。2試合続けてドローとなり、特別ルールで決着。この大会は東日本対西日本の意味合いもあり、この時点で1勝1敗。
同2時50分いよいよ高熊選手が登場する第3試合、フライ級5回戦。リングアナウンサーが高熊選手をコールすると、1、2試合目ではなかった大歓声が。高熊選手の出身地、佐久市などから約150人の応援団が訪れていた。赤コーナーに登場した高熊選手。カメラのレンズ越しにも緊張が伝わってきた。本人も「緊張していて歓声は聞こえなかった」。
第1ラウンド開始開始のゴングが鳴るやいなや、猛然と襲いかかってくる中日本新人王の坂井涼選手(20、畑中ジム)。高熊選手は手数の多さとスピードに翻弄(ほんろう)された。第2、3、4ラウンドも主導権を奪われたまま。高熊選手は「距離感は良かったが、圧力をかけられ、打たせてもらえなかった」。
最終5ラウンド開始観客も高熊選手がポイントで負けていると感じ、「倒さないと勝てないぞ」の声が上がる。高熊選手も「承知」とばかりに最後の力を振り絞るが、有効打が奪えない。
このまま終了かと思われた残り20秒。「振り回したら当たった」という高熊選手の左フックが顔面を捉え、坂井選手はがくっと腰を落とし、ぐらついた。
場内に「高熊コール」が沸き起こる。猛然と前に出るが、坂井選手はすぐに立て直し、高熊選手の猛攻を冷静にかわした。
午後3時15分試合終了。両者、健闘をたたえ合い抱擁。高熊選手は笑顔を見せた。リングアナウンサーが「3対0で勝者、青、坂井涼」のコール。
午後4時半髙山会長が取材に応じ「悔しいが、不完全燃焼かと思った本人が『やり切った』と言っていたので、それだけでもよかった。大声援はありがたかった」。
24日午前11時高熊選手が取材に答えた。「相手のレベルが違った。最終ラウンドの左フックは手応えがあったが、詰め切れなかったのが悔しい。ただ、東日本新人王になったことは自信になった。新年は一からのスタート。こつこつと努力して日本ランカー入りしたい」

【プロフィル】
たかくま・りゅうのすけ 佐久市出身。自動車整備士の傍ら2020年8月、同ジム入会。21年6月、プロテスト合格。戦績は9戦7勝(3KO)2敗。