【ブドウ畑に吹く風Ⅱ~ワイン造りに携わる人々】#17 うさうさのプチファーム・中村智恵美さん

“多足のわらじ”一人で奮闘

「ワインは難しく敷居が高いと思われがちだが、肩肘張らず気軽に親しんでほしい」。大町市を拠点に、たった一人でブドウ栽培と自家醸造、農家民宿経営の“多足のわらじ”に奮闘する。
実家は塩尻市のブドウ農家で、ワイン好きではあった。夫の転勤で須坂市に住んだ時、隣の高山村の「信州高山村ワインぶどう研究会」に「面白そう」と参加したのが転機に。2008年、夫の実家がある大町市で、寒冷地に強い白ワイン用品種「ケルナー」の苗10本を植えたのがワイン造りの第一歩となった。
以降も千曲川ワインアカデミーなどで学び、品種や栽培法を試行錯誤してきた。農薬を全部やめて、ブドウが全滅してしまった年もある。「作業が楽でこの地に合ったブドウがないか、今も模索している」という。
現在は大町市と池田町で畑を借り、「富士の雫(しずく)」「北天の雫」「モンドブリエ」といった国産の珍しい品種など5種を育てる。
自前のブランド名が「うさうさのプチファーム」で、伊那市のワイナリーに委託醸造するワインは、大町市のふるさと納税返礼品にも採用された。国の「ハウスワイン特区」制度を利用して自家醸造するワインは民宿で格安で提供、宿泊客に喜ばれている。
昨年春、大町から松本の広範囲にあるワイナリーやブドウ生産者27人が集う「北アルプスワインぶどう研究会」代表に就任。秋には初イベント「信州安曇野ワインマルシェ」を成功させた。イベント運営や情報発信など全てが初めてで「とにかく手探りで全部が大変だった」と振り返る。
小規模ワイナリーが増える原動力となった「ワイン特区」制度には、より広域化する改正を期待する。「県内ワインツーリズムの先進地、千曲川ワインバレーのように、北アルプス地域も大町から塩尻まで広域特区にして、豊富な観光資源を回りながらワイナリー巡りを楽しめるようになれば」と夢を描く。
これまでを振り返り「目の前のやりたいことをやって、どうしても困ったら誰かが助けてくれた」と笑う。「ワイン造りで一番面白いのは、面白い人に出会えること」。好奇心は衰えない。