【ブドウ畑に吹く風~記者のワイン造り体験記】#12 仕込み開始

目指す味追求し選択実行

ワインは、古代エジプト時代から造られる人類最古の酒といわれる。ブドウをつぶして果汁を置くと、糖が自然にアルコール発酵して酒になる。自然発生的に始まった。
現代でも基本工程は変わらない。果実をつぶし、白ワインは圧搾して果皮を取り除き発酵、熟成。赤ワインは果皮と果汁を一緒に発酵、その後搾汁(さくじゅう)して熟成する。
昔と大きく違うのは、ブドウの品種ごとに個性を出し、目指す味をイメージしておいしく仕上げるために、どのような形で発酵させるか、考えて行う点だ。最適な方法を選び実行するのが仕込み作業で、“造り手”と呼ばれる醸造家の腕の見せ所だ。
収穫の翌日、ガクファーム&ワイナリー(松本市笹賀)の仕込み作業を訪ねた。作業場には、摘んだばかりのシャルドネと、市内農家から仕入れたヤマブドウが山積みだ。
朝から機器の設置や洗浄など準備を整え、ブドウを使った工程がスタート。房から堅い梗(こう)(軸の部分)を除き実だけをつぶす、除梗と破砕だ。
オーナーの古林利明さんが、大きな音を立てて回る除梗破砕機にブドウを投入すると、あっという間に梗は外にはねのけられ、下に落ちて砕かれた実は、ホースを伝って勢いよくタンクへ放出。ブドウの甘酸っぱい香りが室内に立ちこめる。
ステンレスタンクに入ったシャルドネの果もろみは、しばらく置いてから搾汁。どっしりとしたプレス機に移し入れ、時間をかけて圧力を調整しながらきれいな果汁を搾る。その後発酵へ。一方、ヤマブドウは皮ごと浸漬(しんせき)させ、複雑味やこくを出すために、同じヤマブドウから起こしておいた酒母を入れて発酵させる。
衛生管理のため洗浄も重要だ。「機器の衛生状態を保ち、汚染や雑菌を持ち込まないために、多くの時間を割いている」という。
搾汁や機器の洗浄など全てが終わったのは日が暮れてから。仕込み期間中は、ブドウの品種ごとにこの作業が繰り返される。言うが易し行うが難し。改めて繁忙期のワイナリーの苦労を思った。
醸造場にはすでに仕込んだタンクが八つ並び、それぞれ成長(発酵)していた。その世話(管理)については、また来月。