【記者兼農家のUターンto農】#91 体のケア

農作業と痛み松本大が研究

6日は二十四節気の啓蟄(けいちつ)。冬ごもりしていた虫が起き出すというこの時期、農家もなまった体を動かし出す。うちでは、リーフレタスの種まきが始まっている。
痛みの出ない体づくりが肝心だと、松本大学と松本ハイランド農協波田支所が健康教室を開いた。きっかけは、特産のスイカ農家の声だ。
「膝が痛い」「腰も」。そんな訴えが、松本大人間健康学部スポーツ健康学科の田邉愛子准教授(47)に届いたのは3年前だ。教えてくれたのは、体育学が専門で、桐蔭横浜大名誉教授の吉田勝光さん(74、松本市波田)。家庭菜園でスイカを作り始めたら農家の悩みが耳に入るようになったという。
どんな作業がつらいのか─。田邉さんは実態を知ろうと考え、ゼミでスイカ農家300戸にアンケートを行った。
すると、収穫よりも負担を感じる作業が挙がった。交配と、つるを整える「本引き」。どちらも腰をかがめて続ける作業だ。
「びっくりした」と、調査に協力した同農協波田支所の太田和也営農生活課長(46)は言う。「重い玉の持ち運びに目が行きがちだが、収穫ではなくても農家はアスリート的な動きをしていた」
痛みのもとになる動きが見え、田邉さんは、対策としてストレッチを提案することに。同支所の青年部、女性部などに声をかけ、今年2月から健康教室を3回開いた。アンケートの分析を報告し、背中の大きな筋肉や太もも裏などを動かす指導をした。
「農家は物作り優先で、自分の体作り、ケアは一番最後になる」と太田さん。それは、うちの親たちを見てもうなずける。意識改革が大事だとすれば、研究機関と現場が協力して、実証的な調査をし、具体的な対策をフィードバックするという循環は、魅力的な取り組みだ。
「農業は意外と元気に楽しくやれるという実感を広げたい」と田邉さん。若い世代に届けば、後継者不足の解決にも一役買うと期待している。