【記者兼農家のUターンto農】#129 フランスの農民デモ

ある日の朝食。米は自家栽培だが、みそ汁の実は買ったもの。自分も生産者であり消費者だ

生産者の苦境消費者も連帯

朝ご飯を食べながらテレビを見ていたら、高速道路上に大きなトラクターが連なって止まっている光景が映った。場所はフランス。同国テレビ局のニュースをNHKのBSが放映していた。1カ月ほど前のことだ。
パリにつながる道なのだという。各地から集まった農家が、運送トラックを通せんぼして“検問”し、輸入食料品は力ずくで差し押さえている。思わず、「どういうこっちゃ」と声が出た。
政府への抗議らしい。安い輸入品が増えるグローバリゼーションや厳しい環境規制を進める政策に怒っている。背景に、資材が高騰し、もうけが減っていることがある。
他の国からの報道も調べると、農民デモは欧州各国で起こっていることも知った。
フランスからの映像には、他にも驚かされた。パン職人が道路封鎖の現場を訪ね、農民たちに差し入れのパンを配っているのだ。国内の農家がなくなると困るから、と取材に答えている。連帯を示そうとやってきた一般市民の姿もあった。
デモに生活を乱されて憤慨している人もいるはずなのに、社会は総じて農家の行動に理解を示しているという報道ぶりだった。
ちょっとうらやましく思った。犯罪まがいの迷惑行為が許されることでは、もちろんない。生産者の苦境をこんなに消費者が自分ごととして考える土壌が日本にあるだろうか。
その後、欧州連合(EU)が環境規制を緩めるというニュースが伝わってきた。
折しも、日本農政の憲法ともいわれる「食料・農業・農村基本法」の改正案が国会に提出された。25年ぶりの改正の理念の一つに、経費に見合った農業を続けられる「農作物の合理的な価格形成」が挙がる。適正な価格転嫁、要は値上げだ。
法律ができたから実現できるものではない。消費者の理解が醸成されるような議論になればと思う。
食卓と農地はつながっている。たまにはそのことを認識し直したい。