【ブドウ畑に吹く風~記者のワイン造り体験記】#10 瓶詰め

一年の苦労や思いが商品に

実りの秋。丹精してきたブドウの収穫が、いよいよ目前に迫ってきた。ワイナリーでは定期的な果汁分析で糖度や酸度などを測定し、最終的には人間によるブドウの試食で成熟度をチェック。収穫のベストタイミングを見計らっている頃だ。
さらに、収穫後すぐに始まる仕込みに向け、収穫予想量に合わせてタンクやたるをどう使うかの割り振り、醸造機器の整備や洗浄など、この時期、やることは多岐にわたる。頭をフル回転させ、天気予報にも神経をとがらせながらの日々が続くようだ。
松本市笹賀のガクファーム&ワイナリー。こうした忙しい作業の合間を縫って、昨秋仕込んだワインの瓶詰めが最終段階を迎えていた。この日瓶詰めしたのは、カベルネ・フランとメルローから造り、9カ月間、たる熟成した赤ワイン「SEIL(ザイル)」だ。
「昨年のヴィンテージ(=収穫年)は天候が悪くてブドウが熟さず、収穫が2週間ほど遅くて心配した」と振り返るオーナーの古林利明さん。発酵を始めてから何度も味や香りを確認し、ワインをどう育てるか(熟成させるか)、さまざまな選択を重ねながら、心血を注いできたという。
瓶詰め直前のワインをテイスティング。澄んだ色で、香りが高くまろやかだ。「おいしいワインになってくれて感謝」。苦労が報われた安堵(あんど)感からか、古林さんがほっとした表情でほほ笑んだ。
瓶詰め作業を手伝う。深緑色の瓶を水で洗浄し、イタリア製の充てん機に並べる。上からワインが定量、自動的に注がれる。瓶は隣の打栓(だせん)機へ。定位置に置いてボタンを押すと、自動でコルクが打たれ、面白い。
古林さん、妻のいつ子さんとの連携作業で、2時間ほどで300本、最終的に600本のワインを詰めた。ワインは金属製のメッシュパレットに1本ずつ並べ、18~20度に保たれた貯蔵庫でさらに半年ほど寝かせ熟成させる。その後、ラベルを貼ってやっと商品として消費者にお目見えする。
おぼろげだったワイナリーの一年のサイクルがようやく少し実感できた。完成したボトルは、ワイナリーの一年の苦労や思いが詰まった大切な商品。手の中でずっしりと重みを増した。