焼き肉店「かとちゃん」再出発 喫茶山雅の隣に移転

焼き肉店「かとちゃん」。サッカー松本山雅FCのサポーターに愛された店が1月末、松本市大手4の喫茶山雅の隣に移った。店名には「二代目」の文字が加わった。
一時は、なくなるかもしれなかった。
元あった飲食店街が閉まることになり、これを潮に初代の加藤順一さん(65)は飲食業からの引退を決めた。1年ほど前のことだ。
「なくなるのはもったいない」。常連客で、厨房(ちゅうぼう)機器業の桜井勇二さん(54、安曇野市穂高有明)は思った。アマチュア時代の山雅クラブでプレーした元選手でもある。
喫茶山雅の隣でというアイデアにクラブは協力的だった。店舗造りは桜井さんのサッカー仲間が手伝った。
思いはつながり、山雅が新シーズンを迎える時期、にぎわいの再スタートを切った。

タイミングと縁に恵まれて

2005年、松本駅近くの「昭和横丁」で「かとちゃん」は開店した。名物はジンギスカン。臭みのない味が多くの人に好まれた。
桜井勇二さんもその一人。山雅クラブでプレーし、クラブがプロを目指し始めた頃からは育成組織でコーチを務めた。かとちゃんにはよく通った。同僚のスタッフや選手にファンが多く、サポーターも集まった。居心地のいい場所だった。
「パパ」と呼ぶ加藤順一さんから飲食業引退を聞かされたのは昨春。「継ぐ人いる?」と尋ねると、「18年やってもそんなことを言ってくれる人は誰もいねえんだ」。さみしそうな口調に、「俺がやるよ」と返した。酔った勢いもあった。
日を置いて冷静に自問した。「あの場がなくなるのはもったいない」。改めて加藤さんに話すと、快諾してもらった。
移転先と人手の確保に取りかかった。
「店の雰囲気を引き継ぎたかった」と桜井さん。こぢんまりとしてテラスがある―。そんなイメージにぴったりの場所が、すぐに思い浮かんだ。喫茶山雅の隣の建物だ。
かつて本業の厨房(ちゅうぼう)機器の設置で出入りしたことがあったが、倉庫になっていた。現状を確かめに行くと、知り合いの喫茶山雅スタッフに声をかけられた。移転構想を話すと、「絶対いいよ」。クラブ幹部の反応も良好で、とんとん拍子に賃貸契約が進んだ。
人手も当てがあった。長男の友貴さん(24)。山雅ユースに所属し、大学までプレーした後、東京で社会人生活を送っていたが、Uターンを考えていた。
かとちゃんの常連で、学生時代には焼き肉店でアルバイトもしていた。父親の打診に「人と話すのも好き」と、転身にすぐに前向きになった。

味も雰囲気も引き継ぐ店に

「何かつまずきがあったらやらなかった」と桜井さん。「タイミングが合った」と、縁の強さを感じた。
肉の仕入れから仕込みまで、父子で加藤さんの手ほどきを受けた。「かとちゃんのラムは臭みがない。その理由を丁寧に教えてもらった」と友貴さん。
初代が昨年12月末に閉店し、1カ月後にオープンした。
山雅サポーターの奥村勇那さん(31、伊那市)は夫妻で来た。日中は喫茶山雅で過ごし、「流れでかとちゃんに来た。おいしいし、場所も最高」。松本市内の横山宗平さん(34)は、山雅ファンではないが、移転前から夫婦で通う。「味も雰囲気も変わっていない。また『かとちゃん』に来られた。よかった」
メニューには2代目オリジナルも加わった。加藤さんは「お客さんがそれぞれ楽しんでもらえれば。店名が引き継がれて、前のお客さんが集まる場所が継続できた」と喜ぶ。自分も客席でじっくり味わうこともある。
午後5~10時、日曜と祝日の月曜定休。同店TEL090・9330・3929