子どもが“遊べる”展覧会を-安曇野ちひろ美術館が参加型企画

「まどのらくがき」plaplax 2024年(許可を得て撮影)

薄暗くて静かで、監視員の目があったり、自由に動き回れなかったり。子どもにとって美術館は、ちょっと退屈な場なのかもしれない。「何でも遊びにしてしまうのが子ども。絵を見ること自体を遊びにしてしまおう」。発達心理学の視点や参加型の手法を取り入れた、子どもも大人も楽しめる展覧会が、松川村の安曇野ちひろ美術館で開かれている。
同館は今年、「いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ」と題し、絵本画家・いわさきちひろが大切にした「あそび」「自然」「平和」をテーマに展覧会を春、夏、秋に企画した。
6月2日まで開催中の「あ・そ・ぼ」の展示室には、体を使う参加型作品、絵を楽しみ絵本の世界を追体験できる遊具を置き、子どもたちは美術館で夢中になって“遊んで”いる。

子ども目線の心躍る美術展に

「楽しい!」「僕は色を作る名人だ!」
今月14日、安曇野ちひろ美術館を訪れた認定こども園松川北保育園(松川村)年長児のはしゃいだ声が響く。床の足を置いた場所に、いわさきちひろの絵に特徴的な技法「にじみ」の映像が音楽を伴って広がる仕掛けの作品「絵の具の足あと」で、体全体を使い無邪気に遊ぶ。
一方、雨の日の曇ったガラス窓に見立てた映像が投影された壁面では、指先で「落書き」に熱中。絵本「あめのひのおるすばん」の一場面がモチーフの作品「まどのらくがき」だ。曇りを指で“拭う”と見える主人公の女の子と、向かい合わせで遊んでいるようで、ほほ笑ましい。
いずれもデジタル技術を用いた作品で、アートユニット・plaplax(プラプラックス)の制作。「絵の具の足あと」は2018年のちひろ生誕100年のコラボレーション展で人気を集め、再展示した。同園年長の小野寺慧人(けいと)ちゃんは「『絵の具|』が楽しかった。傘を持った女の子の絵がかわいかった」と話した。
今年の一連の展示は、plaplaxがディレクターを担当。美術や絵本ではない分野の科学者や研究者の協力で、没後半世紀を経たちひろ作品の世界や思いを、新たな視点で紹介する斬新な展示に挑戦している。
ちひろの絵など120点余を並べた「あ・そ・ぼ」展は、発達心理学などが専門の京都大准教授の森口佑介さん(44)が企画に協力。傘やほうきなどを持つ子どもたちを描いた作品の近くには、絵に登場する物を実際につり下げて立体物で興味を引いたり、ちひろの絵を基に遊びの発達を紹介したり。森口さんは「何でも遊びにする子どもの遊びや心の在り方の本質的な部分を、しっかり捉えている」と絵を解説している。「まどのらくがき」などは「自分のやった行為の結果が現れることが、子どもたちは大好き。赤ちゃんでも楽しめるのでは」。

ちひろの長男でちひろ美術館常任顧問の松本猛さん(72)は子どもの頃、母に連れられ東京・上野の美術館へ頻繁に通うのが嫌で、「後で動物園に連れていってあげるから、の言葉につられて仕方なしだった」と回顧。plaplaxの近森基さん(52)も、2歳の長女と美術館に行くと「子ども向けの展示でもすぐ外に出たがる。展示内容ではなく、見方の問題ではないか」と悩んでいた。
そこで、展示室には通常とは違う視点で絵が見えるのぞき穴や、犬の鳴き声が聞こえる遊具などを設置した。近森さんは「子どもは壁に向き合うのが苦痛かも」と考え、絵を見るきっかけや、展示室を巡る通り道の雰囲気を演出。「子ども目線で本気で作ると、大人にも理解しやすく興味が持てる。子ども心を引き出して展覧会を楽しんで」と話す。
「あそび」に続き「平和」の展示は6月から、「自然」は9月から。午前10時~午後5時。水曜休館。入館料1200円。(18歳・高校生以下は無料)。同館TEL0261・62・0772