「良い一日を」思い込め声がけ 松本・島内小児童の登校見守る檜原良親さん

「あついなかさむいなか いつもありがとうございます」
小学3年の男子児童から届いた手紙の一節だ。大切そうに見せてくれたのは、松本市島内で農業を営む檜原良親さん(74)。平日午前7時15分から8時15分までの1時間、同市の島内小学校前の横断歩道に立ち、児童の登校を見守る。
同校正門前の市道は登校時、通勤ラッシュの車列が途切れない。子どもの飛び出しを防ぐため、檜原さんは児童が来ると黄色い旗を掲げ、いったん立ち止まらせる。車が確実に停止したのを見届けてから、横断を促す。
「おはよう。いってらっしゃい」
良い一日を送ってほしいとの思いを込めて声をかける。児童たちからは「ボランティアのおじさん」と親しまれている。

誰かの幸せが自分の幸せに

檜原良親さんは松本市生まれ。安曇野市で家庭を築き、2人の息子を育て上げた。サラリーマンを経て50代で農業に転身。夫婦で年金生活を送る。2020年に再び松本市へ転居した際、島内小の教頭から危険な通学路の話を聞いた。
児童の見守りは以前もやっていたので、既に活動していた男性と2人体制でボランティアを始めた。その後男性が引退。自然な流れで引き継いだ。「誰かがやらなきゃいけないなら、自分がやればいいと思っただけ」。特別な思いはなかった。
毎朝5時に起床。新聞を読む。身支度を整え、白湯を1杯飲んでから徒歩で島内小へ向かう。まだ肌寒い3月も、上着を着込んで子どもたちを出迎える。一旦停止や徐行する車の運転手へは、感謝のあいさつを欠かさない。その姿から「地域全体で子どもを守る」思いがにじみ出る。
子どもへの思いは、別の形でも続いている。2013年から、保育園や小中学校へ図書寄贈を重ねてきた。新聞広告で目にした図鑑「奇岩の世界」(創元社)に心を動かされ、購入。「本に触れる入り口になれば」と、当時住んでいた安曇野市の豊科南小学校へ贈ったのが始まりだ。
その後、同市の豊科南中学校へ「世界の友達」シリーズ(偕成社)約30冊を届けた。同市のたつみ保育園(現・豊科たつみ認定こども園)にも寄贈を始めた。孫が通園した同市の三郷南部認定こども園にも3年間、約40冊を贈った。
寄贈する本は、新聞を切り抜いて作った独自の〝カタログ〟から、園や学校側に選んでもらい、書店で購入する。金銭面のやりくりもあり不定期だが、豊科の3カ所には、できるだけ同時に届けている。寄贈総数は200冊に迫る。感謝の手紙も届き、「多くの子どもたちに喜んでもらっている」と実感している。図書の寄贈は13年目に入った。
実益を兼ねた趣味もある。MGプレスや信濃毎日新聞など、新聞への投稿だ。農業を通した日常や社会への思いなどをつづり、ファクスを送る。掲載されると届く図書カードが、寄贈費用の一部となる。
園児たちとの交流は他にも。買い物に行った際、檜原さん自身が作成して買い物籠の底に忍ばせる「レジ作業お疲れさま」の紙に、野菜の絵を描いてもらっている。
檜原さんは10年ほど前、スーパーで目にした光景が忘れられない。前の客が店員に強い口調で不満をぶつけ、その時店員は目に涙をためていた。以来、買い物籠に「お疲れさま」と手書きのメッセージを入れ、労をねぎらうようにした。園児に協力を依頼したのは、相手を思いやる気持ちの大切さを伝えるためでもある。
児童の横断を見守る朝の通学路で、運転手から「邪魔だ、どけ」と言われたことがある。大人には心の豊かさと余裕を持ってほしいと願いながら、活動は4年目に入った。「見守りをやるようになって、人の喜びが自分の喜びだと気が付いた」。この思いを胸に、今日も横断歩道の前に立つ。