「マルショウ」ブランド強固に
みそ、しょうゆは人々の生活に欠かせない。それらを造る醸造業は伝統産業といえる。しかし今日、時代に合わせた変革を迫られている。
「基礎調味料としての力が弱くなっている。それを発展させた加工食品で『マルショウ』ブランドをつくっていく」。丸正醸造(松本市出川町)の代表取締役、林信利さんが目指す方向は明確だ。
同社は1895(明治28)年の創業。林さんは124年の歴史がある老舗企業を背負う4代目。東京で働いていたが、家業の「人手が足りなくて」と、28歳で松本へ戻った。営業部門にいた32歳の時、担当エリアで3軒の商店が同時期に廃業。「(醸造業も)20年先、どうなっているか」と危機感を抱き、将来像を模索してきた。
「これまでは伝統、社風を重んじてきた。そういう重圧は感じながらやってきた」。一方、人々の食生活は変化している。外食が多くなった。買い物はスーパーが主。基礎調味料でなく、たれやドレッシングといった加工品が売れる…。こうした中で醸造業を続けていくことは「二重苦ですよ」と苦笑する。
悲観的な要素ばかりではない。健康への関心が高まり、消費者は安心、信頼を求める。体に優しいとされるみそ、しょうゆなどの発酵食品に注がれる視線は熱い。県は昨年11月、「発酵・長寿県」宣言をし、発酵食品産業の振興を通じて健康長寿を目指す。
林さんは「長野県の流れに乗って、県外を含め商品の販路を見いだしていきたい」。その基軸は「信州らしさ」と「手作り感」をテーマにした商品の開発だ。
同社の人気商品の一つに「ごまとくるみがたっぷり味噌(みそ)」がある。「ごま味噌」にクルミを加え、より信州らしい商品に仕立てた。
変化が著しく数年先も読みにくい時代。しかし、「人間の『味覚』はアナログ。そうは変わらない」と林さん。信州の素材を使った商品、郷土の食文化に沿った商品を作り続け、「マルショウ」ブランドを強固にしていく考えだ。
【プロフィル】
はやし・のぶとし 松本市出身、東京農大卒。都内の百貨店で働いた後、28歳の時に松本へ戻り丸正醸造に勤務。2012年、4代目の代表に就任。51歳。松本市出川町。
(矢崎幹明)