【ビジネスの明日】#19 大沢会計事務所所長 大沢利允さん

地域育てる社会活動も展開

会計事務所といえば、企業の経理や税務処理を支える専門家集団。松本市北深志の「大沢会計事務所」はそれだけにとどまらず、地元企業と関わる中で、幅広い事業や社会活動を展開してきた。設立から35年が経過し、大沢利充所長の信念は「顧客や社会のための奉仕が、結果的に自分の利益になる」を意味する「自利利他」だ。
1980年代、大型店が地方に進出し始め、地元小売店との流通競争が始まった時代。大沢さんは、実家の酒販店の経営を通して「中小企業の生き残り策」を常に考え研究していたという。
これを原点に、税理士の資格を生かし「アドバイザーとして、地元企業の成長をお手伝いしたい」と84年に会計事務所を設立した。長女が誕生した日に創業。以来、娘と事務所の成長を重ねてきた。
地元企業の税務処理や経営指導などを行う中で、経営者から相談を受ける機会も増え、そのたびに「会社づくりは人づくり」と、経営者本人や従業員のレベルアップを求めた。
倒産に直面した企業には「生き方を変えるほどの気付きが必要」と厳しく指導。「気付きの経営計画」というユニークな専門部署を立ち上げ、マネジメントのゲームなどを通して理想と現実を認識してもらい、解決の糸口を探った。
「決算書を見れば、経営者が分かる。金の使い方=経営者の考え方」と大沢さん。中小企業は社長の判断次第で、経営状況が大きく変わることを訴えた。
相続に関する相談にも乗ってきた。「相続問題の原因は家族関係。特にきょうだい間の意識の違いが争いになる」と考え、その解決法として遺言書の必要性を痛感。2001年にNPO法人を設立し、普及活動を推進。自費出版した遺言書の製作キット「遺言書を書こう」がベストセラーになった。
さらに、事務所内にも「相続の窓口」部門を設置。最近注目されている、信頼できる家族に自分の資産を預け、財産の管理を行う「家族信託」なども提案しているという。
「遺言書を通じて家族の絆を深めて」という大沢さんの思いは強く、全国の税理士や会計士などと連携して「全国相続協会」も設立、各地で遺言書の必要性を訴えている。
これら本業以外にも、大学の非常勤講師や講演会の講師などを務める大沢さん。「まだまだ思うようにできていない、力不足を感じる」と謙虚に話し、今後も「地域を育て、良い社会をつくりたい」と、自身の活動にぶれはない。

【プロフィル】
おおさわ・としみつ 1950年、松本市北深志で酒店の長男として生まれる。拓殖大商学部卒業後、税理士の資格を取り、84年に事務所を設立し所長就任。70歳。松本市旭町。