【ガンズリポート】サッカー・運動教室の社会的価値

費用対効果は7.2倍

巡回サッカー教室がもたらす社会的価値をお金に換算したら、費用対効果は7・2倍-。松本山雅の活動について、こんな結果が導き出された。地域貢献活動の意義が分かりやすく可視化され、行う側、受け入れる側の双方にとって参考になりそうだ。
「おっはよーございまーす!」。大人の叫ぶような声が響き、負けない大声で子どもたちが応えた。4月下旬、松本市島立運動場。堀米保育園の子どもたちは、冒頭のテンションの高いあいさつで、山雅のスタッフに引き込まれた。鬼ごっこから始まりミニゲームまで1時間、年長の17人が元気に体を動かし続けた。
小林加奈栄園長は「教え方がすごく上手で面白い。臨機応変にやっていて、長く子どもを教えていることが分かる」と感心した。

スポーツの楽しさを伝える教室。プライスレスな体験をめぐる活動を、お金に換算できないか。難題に挑んだのが、行政や企業などをつないで課題解決に取り組むフューチャーセッションズ(東京)だ。スポーツマネジメントや経済の専門家らと協力し、山雅が子どもを対象に行う巡回サッカー教室と、主に高齢者や子ども向けに開く運動教室の社会的インパクトを分析した。
まずクラブや企業、保育園、自治体などにインタビュー。具体的にどんな成果が得られたのかを聞き出し、相当する社会活動のコストに換算した。
たとえば、保育園の先生。山雅のスタッフの指導ぶりから、サッカーを通じて子どもの注目を集めるやり方が学べる。それはいくらに評価できるのか。県サッカー協会の講習費2000円に相当するとみなした。
また、教室のメニューを園の運動プログラムに採用した場合、先生が企画のために割く時間が節約できたことになる。その分の時給をサッカー教室のおかげとして計上した。
こうして当事者たちが挙げた成果をお金に換算し、積み上げた。これをスタッフの人件費や交通費と比較したところ、2019年度に開いた129教室の費用対効果は7・2倍とはじき出された。

じかに金銭をもたらす経済的リターンではなく、社会へのインパクトを測る「社会的投資収益率(SROI)」をスポーツに取り入れる動きは、海外で始まっている。フューチャーセッションズが今回初めてJクラブで実施した。同社のスポーツ部門を率いる田上悦史さん(30)は「確実なところで計算し、数百万円規模の効果がわかった」という。
教室を担当するNPO法人松本山雅スポーツクラブの青木雅晃理事長(34)は「金額はともかく、活動の解像度が上がった。ポジティブな意味をもう一歩踏み込んで外に説明できる。スタッフにとっても、数をこなすという思考になりがちなところを見直せる」と評価する。