【ガンズリポート】後半戦へ課題と期待

J2リーグ戦は次節で前半の日程を終える。Jリーグ参戦10年目の松本山雅FCは、思うように勝ち点を伸ばせずに監督が交代し、反転攻勢を期す。長年チームを見てきた2人に、これまでの戦いぶりと後半戦への期待を聞いた。

ちぐはぐ感 声掛け合って/山雅選手・今井昌太さん

今季の試合は全部見ています。あのプレーがうまくいっていれば─というのが多かったかな。ちょっとしたボタンの掛け違いで苦しくなっている。「たら、れば」が少ないチームが勝っているんでしょうけれど。
僕にも、山雅ではないですが、原因が分からないまま負けが続くという経験がありました。サッカーって難しいと改めて思います。
見ていて、選手がもっとギラギラしてもいいかなとは思います。苦しいときに、何人がほえているか。GK村山智彦選手の声はよく聞こえますが、厳しい声がもっと飛び交っていい。
名波浩新監督もピッチの声を求めているんですか?選手のモチベーションを上げるのがうまいと聞いたことがあります。今度は、ボタンがうまく掛かるかもしれない。柴田峡前監督が残してくれたものも、生きるはずです。昨季、布啓一郎元監督が使ったおかげでDF大野佑哉選手が大きく成長したように、多くの若手が主力になるかも知れない。
個人的には、FW河合秀人選手がうまく機能すればと思っています。自分でボールを持って1人、2人とかわしていける。プレーのスピードが上がる。後半戦のキーマンじゃないかな。

【いまい・しょうた】1984年生まれ。2007年、当時北信越リーグ1部だった山雅に加入し、12年まで所属してJFL昇格とJ2入りに貢献した。17年に現役引退。翌年から山雅のスクールコーチなどを務める傍ら、今年、北信越2部のアンテロープ塩尻で現役復帰した。上松町出身。

試合まとめるリーダーを/スタジアムMC・小島雅代さん

10年以上、山雅のホームゲームを放送席から見てきました。コロナ下の応援は確かに物足りないですが、手拍子がすごい。年配の方も難しいリズムに狂いなく合わせています。
群馬戦(4月25日)の印象が強く残っています。前の試合で最下位になったのに、今季2番目の6770人がサンプロアルウィンに集まりました。他のクラブのサポーターなら行かない状況かもしれませんが、山雅のサポは「こんな時こそ応援に行かないと」と思う。「12番目の選手」の自覚です。後半ロスタイムの決勝点に、サポの力を感じました。
前半戦のピッチの中には、何となくまとまりのなさが見て取れました。田中隼磨選手がけがでいなくて、代わりのリーダーが見当たらない感じ。名波新監督も、同じようなことを言っていましたね。
FW横山歩夢選手には、開幕戦でデビューしたときに「すごいな」とワクワクしました。スピードがあって、第2の前田大然選手(現・横浜F・マリノス)になれると。もっとガツガツとプレーして、キープ力が付けばと思います。
FW鈴木国友選手は、東京ヴェルディ戦の3日が26歳の誕生日。バースデーゴールに期待しています。

【こじま・まさよ】1976年生まれ。2002年W杯サッカー日韓大会で、松本市で事前キャンプをしたパラグアイ代表の通訳を務めた。11年から山雅のホーム試合のスタジアムMC(アナウンス)。フリーアナウンサーとして、イベントや結婚式などの司会、ナレーションを務める。安曇野市出身。

もがいた前半戦新生の機運で折り返しへ

開幕当初、柴田峡前監督は、J1昇格を果たすために高い目標を掲げた。シーズンの勝ち点84、得点84。だが、折り返しを迎える時点の現実は、勝ち点19、得点16と、その半分に届くかどうかというペースだ。誤算はどこにあったのか。

戦術根付かず

13位に終わった昨季の得点が44。ほぼ倍という目標は、得点力不足の克服こそ昇格の鍵という前監督の意思の表れだった。
そのために戦術の一新を図った。キーフレーズは「ボールを動かす」。単純に前に蹴らず、自陣からパスをつなぐ攻撃を目指した。実現には高い技術と連係があってこそ。キャンプから習熟に取り組んだ。
だが、ものにできなかった。開幕5試合でわずか1得点。下位に沈み、一時は最下位まで落ちた。
直後、3連勝して息を吹き返したかに見えたが、前監督は練習場でさえない表情も見せた。「いいサッカーではなく、勝ち点3を取るサッカーを考えないといけない時期」。5月中旬、ボールを動かすサッカーを諦めたような言葉が漏れた。

けが人続出

主力選手の1人も「3連勝しても、うまくいっている感じはなかった」と言う。さらに、「キャンプからボールを動かせたイメージは、個人的になかった」。15節で栃木SCに敗れ、チームはロングボール主体にかじを切った。
ただ、その転換も浸透しなかった。「今の状況はバラバラ」とは、4連敗後に別の選手が漏らした言葉だ。チームは、守りの一体感も欠き、失点34はリーグ2番目の多さ。山雅の武器だった「堅守」も失われていた。
戦術を固める上で、けが人が相次いだことが大きな足かせになった。主力が入れ替わり傷み、しかもベテランが多かった。先発の平均年齢は、開幕戦のレノファ山口戦が28.1歳だったのが、19節の大宮アルディージャ戦は25.6歳まで下がった。
DF常田克人(23)は大宮戦の前、前監督から「橋内や篠原が帰ってきても、若手がポジションをつかみ取れ」と言われたという。「若手とかベテランとか関係なく、やらないといけない」と常田。若いチームがもがいた経験は、遺産として引き継がれる。

新監督へ

戦術、選手起用とも固まっていないのは、新指揮官がフリーハンドを振るいやすい状況とも言える。
名波浩新監督は、就任会見で「全員が共通のスタートラインに立ち、振り出しに戻った。競争意識のピリピリとした温度を出していきたい」と語った。
そもそも半分以上の21人の選手が入れ替わって迎えた今シーズン。再び新生の機運で、折り返しへと臨む。

目標シビアに「J2残留」名波監督「声出るチームに」

7戦未勝利となった大宮戦の後、チームの再建は名波監督に託された。現役時代に左足からの長短自在のパスで、日本代表やジュビロ磐田などを操った名手は、山雅をどう変えるのか。
指揮の初日(6月22日)に「僕はリアリスト」と宣言した。華やかな経歴に先走りしがちな期待を制するように、「(順位は)下の方が近い。J2残留をクリアしないと、どうにもならない」と、当面の目標をシビアに示した。
選手間の意思疎通を欠くのが、山雅の弱点と見ていたといい、「ピッチで声が出てくるチームに変貌させたい」という。ただ、FC琉球に大敗した初陣の後は、「個々に声を出しておけば評価されるという感じに聞こえた」と厳しく指摘。「頑張ろう」といった声掛けではなく、戦術的なやりとりを求めた。
「選手とともに学びたい」と繰り返す元スターの手腕が試されると同時に、その指導を表現する選手もまた、試される。