【記者兼農家のUターンto農】#18 草刈り

竿は3年、刈払機は…

真夏の日を浴び、雑草がぐんぐん伸びる。草刈りが忙しくなる。私も駆り出されることになった。
扱うのは、さおの先に円盤状の刃が付いた機械だ。たいていの農家が使っていて、軽快なエンジン音とともに見慣れていたが、刈払(かりばらい)機(き)が農機具としての一般名称だとは最近知った。頭に浮かんだイメージは柔道の足払い。雑草の足元を刈り倒すのが似ている。
払い方は一通り教わった。体の軸がぶれないように、さおを持つ腕を振る。円盤は地面近くをはわせる。安全面の注意を聞き、広めの場所で練習。ほどなく本番のあぜに向かった。
案の定、見た目より難しい。円盤をなるべく地面に沿わせて動かしたいのだが、どうしてもぶれる。時々「キーン」と甲高い金属音が響く。刃が石に当たった音だ。土ぼこりが上がるのは、草の足元どころか、その下の地面を削ってしまった時だ。
あぜの斜面にかかると、ますますやっかい。悪戦苦闘するうち、ふと、8代目桂文楽の落語「船徳」が思い浮かんだ。
訳あって勘当された若旦那が居候先の船宿で船頭になると思い立ち、半端な修業で客を乗せてしまう。「竿(さお)は3年、櫓(ろ)は3月(みつき)なんてぇことをいいますが、なかなかむずかしいもんで」
船を操作する竿と、刈払機のさおが同じ音だというだけの思いつき。ただ、3年かどうかは分からないが、刈払機の操作にも長い経験がいりそうだと妙に納得した。父は70代後半だが、80代でもリズミカルにさおを操る人は多い。
夏の日差しを受けて作業していると、やがて汗だくに。集中力もなくなってくる。そういえば、「船徳」の若旦那も暑い盛りに船を出し、汗が目に入った末に真っ青になって動けなくなった。あれは今で言う熱中症だったのか。草刈りで若旦那の状況が理解できるようになるとは思わなかった。こちらはこまめに水分を取ってしのぐことにしよう。
刈ったところを父に見せると、「(刈り残しが)長すぎる」と駄目出し。せいぜい勘当されないよう修業を積むとしよう。