【記者兼農家のUターンto農】#19 土作り

緑肥の力、葉も根も活用

マルチシートを剥がされた畑が、しばらくして緑で覆われた。ソルゴー(ソルガム)が育ったのだ。種まきから2カ月足らずで、背丈は2メートルを超える。
見かけは同じイネ科のトウモロコシに似ているが、目的は収穫ではない。そのまま刈り倒し、茎や葉を砕いて土にすき込む。肥料にするための作物、緑肥だ。
直接お金にならない“無駄な”作物を畑一面に作る風景は、少年時代の記憶にはない。化学肥料に偏った土作りの弊害が言われて、緑肥が見直されるようになった。今は、近所の畑でもよく見る。
「有機栽培さ」と、父は冗談めかす。不正確で大げさだが、緑肥は有機ではある。同じ重さの牛ふん堆肥と同じ効果が期待できるという研究もある。
ソルゴーを調べて、より興味を引かれたのは地面の下。根っこの働きが侮れない。
根は地下1メートル近くまで伸びるという。この深さまで有機物が入ることになる。機械を使ってもできない業だ。
さらに力業も発揮する。「耕盤」の破砕だ。
耕盤とは固い土の層。トラクターが行き来した畑の深さ20~30センチにできる。水はけが悪くなるので長雨で病害が起こりやすく、逆に、地下から水分が上がらなくなるので干ばつ被害に遭いやすくなる。耕盤を砕くには、巨大なすき(鉄の爪)をトラクターに付けて掘り返すなどする。
この厄介な耕盤をソルゴーの根は貫く。か細い根っこが、固い耕盤にじわりじわりと押し入っていく。枯れた後に無数の隙間が残るという具合だ。
重機に勝るとも劣らない根の力に恐れ入る。そして、その力の活用を考えついた人の知恵に感心する。環境、そして何しろ財布に優しい。
緑肥で秋作をする方法もあるが、この畑でリーフレタスを作るのは来年というのが父の計画だ。7日は立秋。まだ暑い中、秋、冬をまたぎ、春を見据えた土作りが進んでいる。