【記者兼農家のUターンto農】#114 残暑

暑過ぎると稲も困る

今年の7月は、世界の平均気温が観測史上最も高かったという。「地球沸騰化の時代が到来した」というグテレス国連事務総長の言葉が大げさに聞こえないほど、8月も暑い。
その盛りに、暦の上では季節の変わり目が記される。立秋が、今年は8日だった。この日、松本の最高気温は33・8度。真夏日が秋の始まりになった。
暑さは、稲にとって悪いことではない。8月に入ってうちの田んぼでも穂が出た。この穂が熟するために十分な日光がいる。光合成でブドウ糖をつくり、穂に送り込んででんぷんとして蓄積するのだ。人間がうんざりするような厳しい日差しは、稲にとっては恵みとなる。
もちろん、暑さにもほどがあるのは稲も同じ。日中、暑過ぎると、葉から蒸散する水分の補給が間に合わず、しおれることがあるという。いわば稲の熱中症か。
夜間に暑いと、稲の呼吸作用が落ち着かず、昼間作ったでんぷんを余計に消費するという。穂が熟すのに足りなくなってしまう。稲にとっても寝苦しい“熱帯夜”があって、無駄なエネルギーを使うというわけだ。
こういった高温障害が年々問題になっている。信州の、しかも山裾にあるうちの田んぼはあまり心配していなかったが、この先「沸騰化」となると分からない。実際、立秋だった8日の平年の最高気温は32・1度で、今年より1・7度も低いと知ると、怖くもある。
気象データを見ていて、気づいたことがある。平年の最高気温が8日以降は少しずつ低くなっていく。着実に秋に向かい始めるのは、暦通りなのだ。
そういえば、この頃から朝晩に虫の音を聞き、早朝のリーフレタス畑にコオロギを見ることがあった。リーフの今季最後の種まきも立秋前日だった。
お盆が過ぎて、学校の夏休みも終わる。いつも通りに暦が進み、実りの秋を迎えることを願う。