【ガンズリポート】サポーターの命救った「教訓」

AED普及取り組み続け、サンアルで初活用

松本山雅FCでプレーした元日本代表の松田直樹さん(当時34)が、急性心筋梗塞で亡くなってから10年目の今年、山雅が普及の取り組みを続けてきた自動体外式除細動器(AED)が、活動の中で初めて使われていたことが分かった。サンプロアルウィンで行われた試合で、心肺停止状態になった男性サポーターが、周囲の連係で一命を取り留めていた。
4月17日のヴァンフォーレ甲府戦。FW鈴木国友のハットトリックなどで2点差を追い付いた雨中の激戦が終わり、ゲート付近でサポーターの立ち話の輪ができた。運営会社の神田文之社長によると、その中にいた中年の男性が突然、崩れ落ちた。
周囲は大騒ぎに。「看護師です」と名乗り出た観客の一人が男性を寝かせ、気道確保などをした。その間、試合の運営ボランティアが無線で運営本部に状況を伝え、本部に備えてあったAEDを山雅の社員が持って走った。サンアルに常備されるAEDとは別に、試合時にクラブが持ち込んでいるものという。
男性が倒れて数分後にAEDが届き、試合時に会場に詰めている医師も駆けつけ、心肺停止の男性が着ているレプリカユニホームを切り裂き、AEDを使った。まもなく男性は救急車で搬送され、車内で意識を取り戻した。
数日後、男性が山雅の事務所を訪れ、感謝の意を伝えたという。男性を診療した医療機関からはクラブに「初期対応がよかった」という評価が届いた。

2011年8月、松田さんが倒れた練習会場にAEDはなかった。10年がたち、使うべき事態が初めて起きた今回、居合わせたサポーターやボランティア、社員、医療関係者ら、それぞれができることを考え、動いた。わずかな時間の一連の行動が命を救い、あのときの教訓が生かされた。
神田社長は、直後に一連の経過を社員やボランティアに伝えたほか、8月22日の愛媛FC戦の試合前のあいさつで、サンアルの観客にも紹介した。
Jリーグは先月、「#命つなぐアクション」を掲げ、心臓突然死を防ぐプロジェクトを始めた。山雅も引き続き、AEDの講習や啓発に取り組む。神田社長は「ファンやサポーターにも、救急救命の大切さを発信してほしい」と話す。