【記者兼農家のUターンto農】#42 コロナ下の酪農

需要減も搾乳量は変えられず…

牛乳が気になる。
昨年末、コロナ禍で需要が落ち込んだせいで生乳が大量廃棄されるかもしれないと報じられた。何とかしのいで年は越したようだが、息つく間もなく第6波が起こり、長引いている。需要のコップはもつのか。
中信屈指の酪農家を訪ねた。松本市波田の三村誠一さん(60)。家族で営む「三村牧場」は240頭を養い、日に4トンほどの生乳を出荷する。
昨年末は松本駅前で「牛乳を飲んで」とチラシを配った。「おかげさまで廃棄しなくてよくなった」。消費が伸びたほか、酪農家は生産量を減らし、バターなど加工業者も年末年始に稼働した。三つの要因がかみ合い、生乳を余さずに済んだ。
それにしても大量に余りそうになったのはなぜなのか。三村さんによると、やはり新型コロナの影響だそうだが、昨年末に限った事情ではないようだ。
「外国人が来なくなったでしょ。その分、飲まれなくなったし、『白い恋人』が売れなくなった」。北海道の定番お菓子は例年の半分ほどの売り上げにとどまるなど、クッキーなど乳製品を使った土産物が軒並み売れなくなったという。
インバウンドは牛乳需要の面でもばかにならないらしい。もちろん国内観光も激減している。「すべて牛乳を使ったものは動きが鈍くなる。2年で積み重なっての昨年末」と三村さんはみる。
余剰感は、春休みで学校給食がない3月に再び高まる。三村さんは、廃棄はなくても日持ちする加工品に回る量が多くなるかもしれないという。売値が安い加工出荷が、想定より増えることになる。
酪農は動物相手だ。「水道の蛇口をひねるように搾乳量は変えられない」と三村さん。生乳取引は年間契約で、農家は長期的な見通しを基に経営計画を立てる。その基盤が、ゆっくり、大きく、揺らされている。
週単位の市場の値動きに一喜一憂する零細野菜農家とはスケールの違うコロナ禍を知った。