【記者兼農家のUターンto農】#56 田植え

機械の性能月とすっぽん

田植え機にもレベルがあるのは分かっていたが、これほどの違いとは…。今年、次元の違いを見せつけられた。
うちで使っているのは4条植え。「条」とは列のことで、苗を同時に4列植え付けながら進んでいく。乗用タイプとしては最小の部類になる。
薄い車輪は、一見頼りなさげだが、泥の下にある地盤にしっかり乗って安定する。代かきでならした泥土の表面を平らに保ちながら自走し、後部の爪で苗の束から数本かき出して植え付けていく。
準備はそれなりに手間だが、整えて、乗り込んでしまえばこっちのもの。作業は快適に進んだ。
そのとき、近くの田んぼに大きな田植え機が現れた。苗の列を数えると8条植えだ。うちの2倍だが、存在感は3倍くらいある。
驚いたのは速さ。大人のジョギングくらいで進む。うちのは子どもが歩くのより遅い。
本当はもっと速いのだが、植え付けミスが増えるからと抑えている。その点、8条植えは、見たところミスもない。月とすっぽん。見事な植えっぷりに思わず見とれた。
だが、うらやましいとは思わなかった。必要ないからだ。あれほどたくさん速く植えなければ休日に作業が終わらないほど、うちの田んぼは広くない。大手メーカーの8条植えは、新品で300万~700万円。1年に一日使う機械に出せる金額ではない。
ただ、未来はあっちのような気もする。農業で規模の集約化が叫ばれて久しい。見とれた田植え機も、請け負い箇所を増やし、今年初めて私の目の前に現れたような気がする。
それぞれの事情と農法があり、どれがいいという話ではない。今のうちでは、4条植えの自前作業が分相応ということだ。
途中で小学生の娘が乗り込んできた。8条植えの速さだと危ないかもしれないが、こっちは何しろ「亀の歩み」だ。娘は「楽しい」と喜んでいる。食育につながるなら、こっちにも未来はあるのかもと思えた。