【記者兼農家のUターンto農】#59 担い手不足

山雅巻き込み空き農地活用策

ベテラン軽乗用車があえぐように登る。そんな急な坂道に沿って、目的の畑はあった。松本市南東部の中山地区。この日、サッカー松本山雅FCの新人選手たちが、大豆の種まきを体験することになっていた。
ホームタウン内で遊休農地を借り、塩尻市内で育種された「あやみどり」を栽培する山雅の農業プロジェクト。5年目を迎えて4市町6カ所に広がる農地のうち、中山地区は70アールほどになる。
畑からの眺めに目を見張った。標高800メートル超。眼下に松本平が見渡せ、北アルプスが控える。広々とした眺望に、「農作業も気持ちいいだろうな」と思った。
ただ、作り手がいないから借りられるという現実がある。山雅から管理を委託されている小林弘也さん(75)が、選手たちに説明した。「後継者がいなくて『やーめた』となる人がいる」。農業経営に眺めは関係ない。
小林さんは長年、農業法人で、荒廃地になりそうな地元の農地を借り、ソバ栽培などをしてきた。今、広さ90ヘクタールほどに。土手の草刈りが大仕事だという。
昨年までは、市農業委員会の会長という立場でも農地の有効活用に取り組んだ。担い手に新たな人を呼び込めればいいが、規制が悩ましいという。
景色の良さにも引かれ、移住を希望する人は多いが、地域外が絡む農地や空き家の売買、貸し借りは行政が制限している。農地を守るという趣旨だが、停滞をもたらしているように現場からは見える。「あれはダメ、これはいけない。そういう規制と戦ってきた」と小林さんは苦笑いする。見直しを含めた検討を市に求めている。
実は、うちの実家は中山地区とは目と鼻の先。同じように、外部ニーズと土地規制の問題を抱える。人ごととは思えない。
山雅のプロジェクトに協力するのは、「中山の現状に注目してくれるから」と小林さん。「あやみどりは枝豆がうんとうまい」。花も団子も。取り組みから、眺望だけでなく、実ある成果も上がることを期待している。