【記者兼農家のUターンto農】#83 郷土食

筒井さんが考案した「あまーいしょっぱーい! 魔の信州かき揚げ!」

「苦手」の発想から新レシピ

うちで今年の野沢菜漬けを仕込んだのは、11月末だった。母が畑で育てた「お葉」を、私の子どもの頃からある木だるにぎっしり詰める。上ぶたをして重しをのせておくと、数日で水が出てきた。
浅漬けとして食卓に出た。緑色が鮮やかだ。「まだ漬かっていないんじゃないの」と口に入れると、茎の部分はシャキシャキとしているが、塩味との組み合わせはこれはこれで味わいがある。つい箸が進んだ。
これから寒さ増す中、漬かり具合が進む。味の変化を楽しみたいと思っている。
信州を代表する郷土食の野沢菜漬けだが、苦手な人もいる。大町市で生まれ育った筒井久美子さんは、「しょっぱ過ぎる」という。実家でやはり母親が漬けるのを手伝ったが、食べ慣れなかった。
他にも、筒井さんには食べられない伝統食がある。甘酒には独特の臭みを感じてしまうし、凍り豆腐はボソボソとした食感が気になるという。
実は、筒井さんは、給食事業を展開する「魚国総本社」に勤めるベテラン栄養士。三つの食材をまとめて使ったレシピを作った。
きっかけは、県が今年初めて開いた「発酵レシピコンテスト」。野沢菜漬けと凍り豆腐を刻み、甘酒を混ぜた天ぷら粉に絡めてかき揚げに仕立て、応募した。先月、見事、グランプリに輝いた。
「苦手な自分が食べられるものを」と発想したという。プロの意地もあったろう。新しい食べ方を目指した一品だったが、審査員から「長野らしさがある」と評価された。
かき揚げは、勤務先が運営する県内の社員食堂で年明けに出すことになった。「若い人、県外や外国の方にも食べられるのでは」と筒井さん。信州の味になじむ入り口になるかもしれない。
Uターン前からの妻のレシピに、実家の「お葉」で作るパスタがあるのを思い出す。これはこれでおいしい。
年末年始、伝統食の新たな味わい方を考えながら過ごすのも一興だ。