松本平の高校生3人に聞く―「通信制」ってどう?

現在、高校生の15人に1人が通信制高校で学んでいます。不登校を経験した、病気や障がいなどで通学が難しい、スポーツや趣味と勉強を両立させたいなど選んだ理由は人それぞれです。全日制から通信制に転入した松本平の3人に、通うことにした理由や学校の様子などを話してもらいました。

心地よく学び続けたい
気疲れ、部活との両立、教育の多様性など

―通信制へ転入した理由は。
萩原  小学生の頃から休みがちで、学校は自分に合ってないと感じていました。人の目を気にするところがあって、毎日大勢の仲間と一緒に勉強するのにすごく疲れてしまうんです。通信は中学の時から気になっていたけど、道を外れるようで怖くて、全日制を受験しました。
高校は3カ月で行かなくなりました。自分の性格に対する悩みと、勉強の面でもストレスがあって…。そもそも高校受験では「頭が悪いと思われたくない」みたいな考えになって、自分の実力以上の学校を目指しました。入学はできましたが、今度は「偏差値のいい大学にいかなきゃ」と勉強ばかりしていました。高校生になったらやりたいことがたくさんあったのに何もできなくて…。
一度自分と向き合いたいと思ったのが通信を選んだきっかけです。
冨所 高校は1年の冬に1カ月休み、2年の5月からまた休むようになり、8月に通信に転入しました。小中はむしろ自分に合っていて、委員会も部活も勉強も充実していました。中3の夏までは部活に力を注ぎ、その後は受験に向けて集中しましたが、高校では勉強も部活もそれぞれ最初から120%を目指していた。そこを間違えて、両立できなくなってしまいました。
そのうち動悸(どうき)がして眠れなくなって、体もきつくて。でも授業中に寝るという選択肢はなく、学校に行けなくなって成績が落ちて、授業も分からなくなって…。半年は引きこもりダラダラしていました。ただ、外へ出ていきたいという気持ちはずっとありました。
松村 高校は、卒業後の進路などを深く考えることなく、自分の成績に合うところくらいの考えでした。両親が農園をしていて、生まれた時からWWOOF(ウーフ、農作業を手伝う代わりに宿泊と食事を提供する英国発祥の制度)を利用してやって来る日本や世界の人たちと一緒に過ごしてきました。
それが新型コロナ禍で大半が日本人になり、前より深い話をする機会ができました。それまで大きなものに包まれている感覚がずっとあって、社会のレールに乗っていくのは悪いことだと思わないけど、自分の中に疑う余白すらなかった。
学校にいたら成長する場が用意されているし楽しいという気持ちと、このまま周りに流されて望む大学に行き、いい企業に就職できたとして、それは本当に自分のしたいことなのかなという気持ちがぶつかるようになって…。それで通信について調べてみたら教育にもいろいろな形があると分かって、気持ちが楽になりました。

自由ゆえ自己管理大切
各校に特色、目標を立てなりたい自分に

―通う通信制高校はどんな所か。
冨所 授業は通学かオンラインかを自由に選べます。僕は通学の方が多くて、平均して月3、4回くらいのペースで行き、先生と話したり進路の相談をしたりしています。全日制みたいに文化祭や部活動もあって、お米を作る、旅に行くなど先生たちのオリジナルのゼミもあります。
萩原 進学も視野に入れて全日制もある今の学校を選びました。最初の面談で自分に合う通学の方法を組んでくれました。
本校では授業の他にも自習室が開放されていて、分からないところは先生に聞くこともできます。松本では会場を借りて年数回のスクーリング(面接指導)があります。体育のスクーリングでは諏訪湖をサイクリングで1周しました。電動自転車ですけど(笑)。
レポート提出の他に定期テストもあります。
松村 VR(バーチャルリアリティー、仮想現実)学習を取り入れるなど革新的なことに取り組んでいる学校で、本校は沖縄、キャンパスは全国に33カ所、生徒は2万人以上います。年2回のスクーリング(3日間で1セット)は、東京と名古屋のキャンパスへ行ってきました。

―通って感じることは。
萩原 レポートは教科書に答えが書いてあるくらい簡単なので、進学するならそのための勉強をしないと駄目です。私の学校は英語や漢字の検定も単位に認められるので、来年は資格も取りたいと思っています。
自由な時間がある分、自分自身をコントロールするのが大変です。最近は勉強の他にも料理やランニング、筋トレを毎日のルーティンにしていて、メークやネイルなどのおしゃれも自分らしく楽しんでいます。
冨所 気持ちの浮き沈みもあって調整が大変ですが、家族との時間や友人との関わりを増やすことで調整できるようにしています。
通信の授業は本当に少ないので、勉強だけでなく、生活の目的は主体的に設定しなくてはいけません。自分自身で目標を組み立てて、それを実践することを意識しています。時間はかかるし、悩みながらですが、学びたいことがあるので大学へ行きます。
松村 この1年はいろいろな人や場所と出会って、こういうことをお手伝いできるな、こんなことやってみたいなと、心の赴くままに駒を進めてきました。学問的な学びではないかもしれないけど、誰かの思いや感情の入ったものをリアルに体験して学ぶのが楽しいし、そこから生まれるものを大切にしていきたいと思っています。
自分の中に確固たる思いがなかったときは、周りから何か言われるたびに弱気や不安になったけど、今は自分の思考や特性もよく分かって、簡単に心が折れなくなりました。高校生という心の服を脱ぎ、自分で自分の服を選ぶことができたことで、安心して人と話せるようになったんです。通信の決断は私にとってはすごく良かったと思います。

★萩原亜美(はぎわら・あみ)さん
16歳。駿台甲府高校(甲府市)通信制課程1年生。9月まで松本蟻ケ崎高校に在籍。熱中しているのは音楽。ライブに行ったりCDを買ったりするのが好きで「将来は音楽関係の仕事に携われたら」

★松村和楽(まつむら・わら)さん
18歳。N高校(沖縄県うるま市)3年生。2年生まで松本県ケ丘高校探究科に在籍。年明けに沖縄で児童館の立ち上げの手伝いをする予定。ワーキングホリデー制度を使いオーストラリアに行く準備もしている

★冨所大輝(とみどころ・はるき)さん
18歳。信濃むつみ高校(松本市南松本)3年生。2年生の7月まで松本深志高校に在籍。趣味は読書で、小説や歴史、社会学、哲学の入門書などジャンルは幅広い。月に1度あるボードゲームの部活に顔を出す