【記者兼農家のUターンto農】#96 県議選

「農業」が投票のきっかけに

母とジャガイモの種芋を植え付けていると、遠くから呼びかける者がある。「家族農業を、守ります」
振り返ると、県議選立候補者の選挙カーが見えた。すぐに進路を変えて離れていったので、訴えは私たち親子に向けたものではなさそうだ。
ただ、タイミングぴったりの言葉に私の頭は刺激された。「家族農業を守る、か」。ちょっと気になる。
考えてみると、成人して初めて故郷で迎える統一地方選だ。
塩尻にUターンする前は転勤族で、続けて同じ街の選挙で票を投じることはほとんどなかった。
新聞記者という仕事柄、どの選挙も話題には通じるが、関心を寄せられたかというと心もとない。「ここもいずれ去る」と間借り人のような心情が働いて、身が入らなかったところがある。
今回は違いそうだ。昔、祖父母と耕した思い出もある畑で仕事をしているときに「家族農業」を課題に挙げられると、どうしたって自分ごととして迫ってくる。選挙カーから不意に届いた言葉で、初の地元選挙への関心にスイッチが入った。
もっと知りたいと調べ始めて、気づいた。立候補者たちの発信に差がある。インターネットを使っていない人もいて、普段の調べもののようにはたどり着けない。国政より身近なはずの地方政治の担い手候補が、むしろ遠い。私より地縁、血縁に乏しい移住者たちはずいぶんもどかしいだろう。
立候補者を比べるということでは、選挙公報が県の=サイト = でも見られる。信毎が行ったアンケートは、項目ごとの考えの違いをはっきり見せてくれる。
それで調べて、気づいた。「家族農業を守る」と繰り返し訴えていた立候補者は、実は農業政策をそれほど重視していないようだ。なるほど。拍子抜けしたが、他の課題や立候補者について知るきっかけを作ってくれたのは間違いない。私も、農業を入り口に全体を見渡して1票の投じ先を決めよう。