「命」親子で語り合う場を 看取り士 岩井藍子さん

安曇野市出身で2男1女(8歳、5歳、1歳)を育てる岩井藍子さん(35、下諏訪町)は、理学療法士として病院に勤務しながら2020年に「看取(みと)り士」の資格を取得しました。終末期を迎える患者とその家族を支える一方で、「看取り学」を普及させる活動もしています。

★看取り士との出合い
岩井さんは新卒で急性期病院に就職します。回復して元気に退院する人がいる一方、そのまま最期を迎える人も。死と関わるたびに、「自分にできることはないのか」と模索します。
そんな時、映画「みとりし」と出合い、看取り士の存在を知ります。俳優の榎木孝明さんが演じる定年間際のビジネスマンが、さまざまな経験を経て看取り士となり、最期の時を迎える人々を温かく支える物語です。
資格取得を目指して学び始めた岩井さんは、日々感じていた疑問が少しずつ解き明かされ、自身の生き方や子育てにも影響を与えたといいます。
★ネットで「いのちのかふぇ」
「やらずに後悔するより、失敗してもやってみよう」。「看取り学」の学びを通して、考え方が前向きになり、自分の挑戦を子どもたちに宣言、実行するようになりました。
その一つが、次男が誕生した昨年5月から始めたお茶会「いのちのかふぇ」です。ウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を使って毎月1回、参加無料で開いています。
今年5月は、看取りがテーマ。岩井さんは「自分だったらどんな最期を迎えたいですか?どこで、何歳の時に、誰と、どんなふうに─」と質問。参加者はじっくり考えた後、それぞれ発表しました。
「具体的なシーンを思い描いて自分の死を意識することで、今をより良く生きるヒントにしてほしいと思っています。考えるだけでなく伝えることで、今を見つめるきっかけにもなります」。次回は27日開催です。
★子ども向けの講座
「子どもたちはどこまで『いのち』について考えられるのだろうか」。大人向けのお茶会を開く中で思い立ち、今年1月、大人と子どもが一緒に語り合う「いのちのかふぇ」を茅野市で開きました。
参加したのは未就学児とその親4組。岩井さんは、家系図に見立てて積み上げた積み木から1個だけ抜く遊びを用意しました。
子どもたちはどれを抜いても、自分に相当する一番上の積み木が崩れてしまうことを体験します。「今の自分がいるのはおじいちゃんおばあちゃん、そのまたおじいちゃんおばあちゃんといった先祖がいたから。命は代々つながれているんだよ」。岩井さんの言葉を視覚で理解します。
「見えないけれど、確かに存在していた先祖。そして、自分もご先祖さまになっていく。想像を巡らせ、今の自分という存在を感じてほしい」と岩井さん。次回は小学生を対象に「音」を使った体験を考えています。
★絵本の出版へ
中高生の自殺率の高さを知り、何とか防ぎたいと思った岩井さんは、看取り士の仲間に協力してもらい、命のバトンをテーマにした絵本「ひかってる?」を作成。出版に向けて31日まで製作費の支援を募っています。
「幼い頃に感じたことや親と話したことが自殺を思いとどまらせ、生きる力になるのではと思い作りました。命の在り方について親子で語りあえれば、思春期になっても子どもの心を良い方向へと導き、不安を乗り越える力になると思います」

絵本出版の支援はウェブサイトを参照。

メモ
【看取り士】一般社団法人「日本看取り士会」(岡山市)が認定する民間資格。住み慣れた自宅や本人が希望する場所で、幸せな最期を迎えられるために旅立つ人の心に寄り添い、本人の思いや愛を受け止め、残った家族や親しい人たちに受け渡し、最期に寄り添う。養成講座では礼儀作法や死生観、他人の価値観を尊重する心の在り方なども学ぶ。