【ビジネスの明日】#52 石井味噌社長 石井康介さん

「本物志向のお客さんが、行き着く先の商品を用意している」。こう話すのは1868(慶応4)年創業のみそ蔵元・石井味噌(みそ)(松本市埋橋1)の石井康介社長(62)だ。創業当時からの製法と、先代が築いたビジネスモデルを貫きながら、「時代に合わせた発展をしていきたい」と、6代目は先を見据える。

「本物のみそ」観光起点に販売

「うちは、製造方法と、販売方法に特色のある蔵元です」
主力商品の「天然醸造信州三年味噌」。原料の大豆は国産にこだわり、一度に4・5トン仕込める杉桶(おけ)で3年間、発酵熟成。添加物、保存料などは一切、使わない。
「今は数カ月で製品となるみそもあるが、それは本物ではない」とし、「みそは人間が造るのではなく、蔵や桶についた菌が造ってくれるもの」と力を込める。
販売方法は「観光起点」。松本に観光に訪れた団体客を蔵に招き、見学とみそ造りについて説明。みそ汁の試食を行って味を伝え、新規客の開拓につなげる。
これは先代で父の故・基さんが確立した手法。「1970年代後半、観光客から『蔵見学をしたい』という要望が結構あり、それをきっかけにしたのでは」と推測する。
以降、このスタイルを発展。2006年から、みそを使った本格的な食事の提供を開始。今年7月には明治時代のみそ蔵を改装。個人客に対応する全48席の「食事処(どころ)」をオープン。これで、団体客用と合わせ、蔵の敷地内に5会場、300席以上の食事スペースを確保した。
蔵を訪れたお客が、売店で商品を購入したり、食事をしたりする「店頭販売」が売り上げの半分以上を占める。「コロナ禍のような事態には、もろに影響を受けるが、数十年かけて構築したスタイルはこれからも貫いていく」と言い切る。

慶応大商学部卒業後、食品卸の明治屋(東京都)に就職。「1歳上の兄がいるので、家業は継がずに、ずっとサラリーマンという道もあった」が、さまざまな事情で、約7年勤めた後、石井味噌に入社。
基さんによって基本的なビジネススタイルはできていたが、「老舗とはいっても、お客の要望に応えなくては」と、みその品ぞろえを増やし、ソフトクリームなどのスイーツも商品化した。
「『本物のみそ』を基本にした商品力には自信がある。それを伝える情報発信をしっかりしたい」と力を込める。

【プロフィル】
いしい・こうすけ  1961年、松本市出身。松本県ケ丘高、慶応大卒。1991年、石井味噌に入社し、専務就任。2010年、社長就任。同年、「株式会社石井味噌」に組織変更。