松本市山と自然博物館が標本を修復しデータ保存 「昆虫の宝庫」活用を模索

冬なのにチョウが舞う?いや、舞ってはいない。標本箱(51×42センチ)に整然と並べられている。チョウは、カラフルな羽を持つものが多い。その一点一点を、担当者が点検してデータに打ち込み、傷んだものは修復を行い保存している。
松本市蟻ケ崎のアルプス公園にある、市山と自然博物館。主に収集家らから寄贈された昆虫類を整理し収蔵する作業は、2007年の開館以来続く地道な活動だ。
標本箱は既に4千箱ほど、数にして10万点を超える。その半分がチョウだ。「おそらく県内の施設では、最も多い収蔵数ではないか」と同館職員。その活用が課題になっている。

愛好家らが整理 本来の姿に修復

松本市山と自然博物館2階の資料整理室。毎週木曜日、昆虫の愛好家らが標本に目を凝らす。
チョウの標本の修復を担当するのは保科守宏さん(79、同市旭1)。土田秀実さん(75、辰野町)が標本とそれに付けられた学名などのラベルをチェック。大輪潔さん(67、同市中山台)は昆虫の名前、採集地などのデータ入力を担う。いずれも市の任用職員だ。
昆虫の標本は個人の収集家から博物館に寄贈されたものが大半。これらについて状態を調べデータ保存し、館内の収蔵庫に納める。収蔵するためには、きれいな形で残されている必要がある。例えば、チョウの羽や触角が取れたり折れたりした標本があると、保科さんがピンセットや突き針を使い、接着剤で付け元の形に修復する。「標本が極めて貴重な種類のものなら多少傷んでいてもいいが、基本的には本来の姿で保存されていることが望ましい」
保科さんは10歳の頃からチョウの採集に親しんだ。大学卒業後は「松本むしの会」に所属。会社勤めの間は土日曜が中心だったが、退職してからは基本的に虫と付き合う生活だ。「いつ、どこで、どんな虫が発生するか。頭の中に年間のスケジュール表がある」。初代館長に声をかけられ、2011年から標本の整理に携わっている。
土田さんは「小学5年生の頃、夏休みに段ボールにチョウを集めて担任の先生に褒められたのがきっかけ」。会社勤めの頃は海外出張の際に休日を利用して現地のチョウを採集したことも。開館(07年)に向けた準備の時から標本のチェックなどを行う。標本の整理には「見たこともない種類のチョウに出合えるし、新しい発見があって面白い」と話す。

県屈指の収蔵数 研究の資料にも

保科さんによると、国内のチョウ約260種類のうち150種類ほどは長野県内で見られる。中でも松本平は標高差が大きく昆虫の食草が豊かな地域で「昆虫の宝庫」だ。だが、そのことが「松本の人たちをはじめ県民にあまり知られていない」と残念がる。
前身のアルプス山岳館や日本民俗資料館が保存していた標本も引き継ぎ、県内の同様の施設では最も収蔵数が多いとみられる同館。市立博物館・山と自然博物館学芸員の内川潤季さん(36)は「残念ながら、あまり活用されていない」とし、活用の仕方として、一般の人に見てもらう展示と、データベースによる研究利用を挙げる。
作成中のデータベースについては、展示を行う場合に活用できるほか、インターネット上で公開することにより「研究資料として広く活用してもらえるのではないか」と話している。
松本市山と自然博物館開館は午前9時~午後5時(入館は4時半まで)。月曜休館(祝日の場合は翌日)。入館料は高校生以上310円、中学生以下無料。TEL0263・38・0012