【ビジネスの明日】#12 あづみ野ファーム代表 丸山保義さん

生産も販売も 魂のミニトマト

「マジde(デ)あまいトマト」。ユーモラスでインパクトのある商品名でミニトマトの生産、販売を手掛ける、あづみ野ファーム(安曇野市豊科)代表の丸山保義さん(66)。脱サラし高糖度ミニトマトに特化して16年。小規模でも利益を出す経営を成功させている。
「5、6月は1年で最も甘い時季」。広さ約1500平方メートルの温室にはミニトマトが鈴なり。3300本を栽培。生産する20トンのうち、約4割は県外の大手スーパー、残りの6割を県内のスーパーやレストランに納める。4月末からはハウスでの直売も開始。多い日は50組が訪れ、リピーターも出始めている。
通常のミニトマトの糖度は6度ほどだが、「マジdeあまい」は10度。以前は8~9度で、1度上げるのに5年かかった。「トマト作りは情熱の結晶」だ。

実家は代々続く稲作農家。県内大手の外食産業を50歳で退職し、父の反対を押し切りトマト専業農家に転身。当初は金融機関に事業計画を見せると「絵に描いた餅」と融資を断られたこともあった。
栽培開始から間もなく、三郷村(現安曇野市三郷)や食品メーカーのカゴメなどの出資で年間1200トンを生産できる栽培施設が完成したが、ライバルの出現で経営が悪化。「味で勝負」と、さまざまな品種に挑戦したが、失敗の連続だった。
「もう駄目だ」と諦めかけたときに知人が5粒の種を持ってきた。品種も知らないまま栽培したら驚く甘さ。種苗元の「栽培が難しく成功するのは10人に1人」の忠告にも覚悟を決めて取り組んだ。
生産が軌道に乗り始めた数年後、ライバルが高級ミニトマトを発売。再び経営が悪化し「悔しくて、不安で、夜眠れなかった」。
そこで取り組んだのが手書きの経営計画書の作成。これで自分の強みと弱みがはっきりした。トマトのブランド化と販路拡大が必要と分かり「マジdeあまいトマト」という商品名を付けPRした。

コロナ禍の影響で取引先の飲食店が苦しむ姿は、自身の以前の姿と重なり心が痛む。それでも「困難に直面しても工夫と努力で乗り切れば力が付く。決して無駄ではない」とエールを送る。
販売に力を入れたことで、多くの縁に恵まれた。自身の農業経営を車に例えると「生産は前輪、販売は後輪。四輪駆動だから悪路に強い」と自信を見せる。

まるやま・やすよし 安曇野市豊科生まれ。南安曇農業高、近畿大農学部卒。1994年にあづみ野ファームを設立し、代表就任。従業員は妻と、繁忙期のみパート3人。直売は6月末まで。 電話 0263・55・4048