【ビジネスの明日】#14 松本スプリング社長 原田俊樹さん

電気のスイッチなど身近な家電から車、新幹線の枕木まで、生活の至る所に使われている「ばね」。山形村の「松本スプリング」は、半世紀近い歴史のある、松本平を代表するばね製造・販売会社だ。社長の原田俊樹さんは、「周囲に喜びを与えるサービス」をモットーに、荒波の時代にかじを取る。

「量より質 」 目標に“技力”上げ

ばねの材料となるステンレス鋼線や鉄線の太さは、0・1ミリから6ミリ。定期生産するばねは約2000種類。それ以外のオーダーメードや試作品などを含め、月間約300万個を出荷している。
出荷の約半数が、車用で「1台に1000種類のばねが使われている」という。残りは、家電や通信機器、農機具、医療機器、土木などの分野に使われる。近年の需要は横ばいか微減だが、新型コロナ禍で自動車メーカーが生産中止となり、5、6月の出荷は3割ほど減少した。
同社は1973年、諏訪市で修業した現在会長の父・俊次郎さんが、松本市神林で創業。83年に波田町(現同市波田)に自社工場を建設。2007年、松本臨空工業団地に隣接する現在地に移転した。
「量より質」を目標に、技術的に難しい課題をクリアすることで顧客のニーズに応えてきた。「従業員は個々に勉強し“技力”を上げ、会社は最先端の設備を整える。この両輪が大事」とし、個人の目標設定のための面談を年に数回行う。
また、営業担当は置かず、新規顧客の開拓よりも、既存客のリピートや紹介をメインに受注を増やし、昨年度の売上高は約3億6000万円に達した。「納期や商品の提案などで、他にはないサービスや満足を提供すれば自然と仕事は増える」と自信を見せる。
一方、技術者の確保は慢性的な課題。こうした現状の改善と従業員の福利厚生も兼ね、パートを含めた全従業員に年間3万円を「自己啓発費」として実費補助している。
年間100冊は読むという本好きの原田社長ならではのユニークな取り組みもある。毎日昼食後の約20分の「読書会」だ。従業員は交代で週1回参加して主にビジネス書などを読み、感想を述べ合うことで、自らの気付きや「心の成長」につなげる。
本年度からは「合理的利他の追求」をテーマに、顧客だけでなく、従業員や地域にも喜ばれ、満足が得られる会社を目指す。柔軟で先を見据えた経営理念が、堅固な製品を生み出す源だ。

【プロフィル】 はらだ・としき諏訪市出身、松本市育ち。拓殖大卒業後、都内のシステム開発会社にシステムエンジニアとして勤務。1998年、松本スプリング入社、2003年から現職。53歳。松本市在住。