【像えとせとら】登山姿の男女像(松本市里山辺)

屋根に守られて余生は幸せ

美ケ原温泉の旅館街の道沿いにたたずむ、等身大の男女の石こう像。ともに登山靴を履き、男性は左手にピッケルを持ち、右手を女性の肩に回す。
敷地に住む川上雅子さんに尋ねると、引っ越して来る以前からあり、前の住人は昭和のころ松本駅前にあった「ヤヨイ食堂」の経営者だったという。「像が変色したり変形したりしてはかわいそう」と、川上さんの父親が屋根を作った。「春になると像の上に桜が咲く。記念撮影する観光客もいますよ」と川上さん。
題名も、作者のサインもない。食堂を営んだ山本市司さん(故人)の親族を捜して話を聞くと「(市出身の)彫刻家の洞澤今朝夫さん(故人)から買ったらしい」。
食堂は、北アルプスへ向かう登山者が集合したり、米を買ったりする「連絡所」でもあり、夜行列車で松本に着いた客に場所が分かるようにと、像を店の前に置いて目印にしていた。40年ほど前に店を閉めた際、山本さんが自宅に持ち帰ったという。
山本さんが洞澤さんに制作を依頼したのかや、なぜ銅像ではなく制作過程の石こう像のままなのかは分からなかったが、半世紀ほども前に駅前で登山客を出迎え、岳都のにぎわいを見守っていた2人だ。石こう像は水分に弱く、雨ざらしだとぼろぼろになってしまうが、屋根に守られて余生は幸せそうだ。