【記者兼農家のUターンto農】#7 収穫、出荷、朝ご飯

価値の変わる瞬間に敏感で

キュルルゥー。甲高い音で目が覚めた。「軽トラックのエンジンがかかったな」。布団の中でぼんやり思った後、気づく。「そうか、今朝から畑だった」。5月初め、わが家のリーフレタスの収穫が始まった。今年は、いつもより5日ばかり早いという。
畑まで歩く。空の段ボール箱を積んだ軽トラがある。すでに両親が働いている。「おはよう」。軽くあいさつをかわした。
今年初の種まきが2月中旬、豆粒ほどの種から芽が出て、いまや青々とした葉を幾重にも重ねている。リーフの葉は、普通のレタスのように丸まらず、寄り添うようにまとまるだけ。濃い緑がもこもこと畑に連なる。
その根元を包丁で1株ずつ切るのが、収穫作業の最初だ。次は、噴霧器で切り口の水洗い。段ボール箱に詰め、集荷場に運ぶ。これがひと朝の流れだ。
詰め方は決まっている。1箱15株。箱を縦置きし、3株ずつ、5段に重ねて入れる。
玉にならないリーフは、重なると株ごとの境目が分からない。途中、何段目を重ねているのか分からなくなることがある。いつの年からか、段数を確かめながら三つずつ株を手に取るようになった。「イチ、イチ、イチ。ニ、ニ、ニ。サン、サン、サン…」。今年最初の朝も、無意識に心で唱えていた。
5箱、10箱…。3×5のリズムを唱え続けていると、まさに数をこなす感覚になる。リーフはもはや緑の塊。「大きい」「葉が柔らかい」とつぶやく両親の脇で流れ作業に追われる自分がいる。
出荷が終わると、朝ご飯だ。食卓にリーフがサラダで並ぶ。ほおばると、シャキ、シャキと、例年ながらの食感。甘みは去年よりある気がする。
さっきまで量で見ていたリーフを質で感じている。緑のモノが食べ物に変わる。その行き来に敏感でありたいと思った。