【記者兼農家のUターンto農】#36 メイキョ

土木工事も農家の仕事

メイキョをつくるのも冬場の大事な仕事。そう言われてもピンと来ない。メイキョなんて作物、あったっけ?
メイキョは「明渠」と書く。分からないのも無理はなく、載っていない辞書もある。
関連する「暗渠」の方は一般的だ。新明解国語辞典には「地下に設けた水路」とある。例えば、水道のトンネル。それに対して、日の当たる地表に出ているのが明渠だ。平たく言えば用水路になる。
そもそも渠とは「溝」のこと。つまり、メイキョづくりとは、溝掘りのことだった。
溝掘りが、なぜ大事な農家の仕事なのか。それは、稲刈りを考えれば分かる。
私が子どもの頃、ひどく水はけの悪い田んぼがあった。雨が降ると、なかなか乾かない。それでも収穫では、バインダーを使いたい。見た目で大丈夫だろうと乗り入れるのだが、実際はずっと軟らかいのが田んぼの土だ。あれよあれよという間に、はまり込んでしまう。バインダーにロープを結びつけ、力任せに引っ張り出すという秋の日があった。
そうならないように溝をつくる。農家が渠と言う場合、排水路を指す。明渠は田の四辺に沿って掘り、地表を流れる水を受け止め、暗渠は耕作地帯に埋め込んで地中にしみ出す水を集め、外に導く。
父の長年のメンテナンスのおかげで、今では水はけがよくなった。畑に転換できる場所もあるくらいだ。
しかし今年、久々に苦労を思い出した。たまに手伝う自然農法グループ「アイスベアプラッツ」の田んぼで、ぬかるみの中で稲刈りをした。年末になり、実家からスコップを持ちだして明渠づくりに参加した。
思い返すと、春先にスコップで堆肥をまく写真からこの連載は始まった。他にも作物を作る以外の仕事として、マルチシートの処理や機械メンテナンス、もみ殻焼きなどを紹介してきた。「百姓」という呼び名を、百の仕事をする人と読み込む人もいる。来年も、学ぶことはたくさんありそうだ。