【記者兼農家のUターンto農】#46 マルチ敷き

やはり大切な「本番」前の準備

私は普段、これといって運動しない。東京で電車通勤していた頃は日々1万歩を歩いていていたが、Uターンしてからは車移動だ。農作業以外、ほとんど体を動かさなくなった。それでこの冬、3キロ以上太った。体重計の数字に「逆(・)効果てきめんだ」と思った。
春先は冬眠状態の体を揺り動かす時期にもなる。3月中旬、マルチシートを敷く作業が今年最初の本格的な野良仕事になった。くわやスコップを手に畑に出る。機械で敷けない畑の端っこが、私の主な仕事場だ。
作業の一つ一つは、たいしたことない。くわで台形の畝を作り、マルチを張り、土をかけて押さえる。できたら、逆の端に歩いて行って同じことをする。
風があると厄介だが、この日は無風状態。春の日差しの下での作業は快適だ。土を起こしたり、放り投げたり。上体をひねったり、足を踏ん張ったり。「寝起き」の体がほぐれていく。
だが、だんだんつらくなる。昼食を挟み、午後も半ば、音を上げた。機械を運転する父に「お茶にしよう」と告げ、半ば強引に作業を中断した。農作業は瞬間の馬力もさることながら、持続力が肝心。昨秋以来の身体的実感がよみがえった。
ふと思い浮かんだのは、松本山雅FCの取材で聞いた小松蓮選手の言葉だ。「キャンプ序盤は死にそうだった練習メニューが、今はこなせる」
冬がオフの肉体労働者として選手と農家をくくるのは雑すぎる。けれど、苦しんで身体をつくるプロセスに手応えを感じている人の言葉として、心強く思い出された。
彼らは準備を整えて開幕戦で結果を出したが、私はいきなり本番の農作業でへばった。なし崩しのOJT(仕事を通じた訓練)で整えていくしかない。
この日の歩数計の数字は、今年最高の1万3800歩。てきめんとは言わずとも効果が出てほしい。二の腕や太ももに筋肉痛を感じながら願う、農作業シーズンの幕開けだ。