【記者兼農家のUターンto農】#97 マメ科育成

調査目的に緑肥効果が加わる

「風が吹けばおけ屋がもうかる」の言い方を借りれば、「風をよければ肥料屋が困る」という話になるのかもしれない。
3月25日の回で風食対策を取り上げた。風食とは、春の強風で田畑の土が巻き上げられること。それを防ぐために、表土を覆う作物を何種類か試す調査が朝日村の畑で行われていると紹介した。
同じような調査を塩尻市片丘の畑でやっていた。ただ、ここの調査は途中から趣旨がやや変わってきた。昨秋、試験畑に種をまいたときは土を覆うためだった。それが肥料成分をかなりため込むらしいと注目ポイントが増え、今月上旬には、専門家を招いて講習会を開くまでになった。
朝日村の調査でも、“枯れ草”と表現したハゼリソウの肥料効果が話題になったが、今回はヘアリーベッチ。塩尻の畑では、高さ40センチほどに伸びていた。
「あと2週間で80センチになる」と説明したのは、雪印種苗の顧問、米倉賢一さん(64、静岡県)だ。一般的にマメ科の植物は空気中の窒素を取り込む働きがある。このヘアリーベッチはどのくらいか。「10アール当たり40キロ」。刈り取ったサンプルからはじき出された。
かなりの量だ。立ち会った生産者と農協職員が、驚き混じりの笑みを交わした。数字通りなら、窒素の化成肥料はいらない。肥料屋さんが青くなる。
実際は、ため込んだ窒素成分が全て土壌に入るわけではないし、効き方は緩やか。化成肥料をそのまま代替できるわけではない。
だが使いようだと米倉さんは薦める。自身、有機農家としてヘアリーベッチなどの肥料になる作物、「緑肥」を使ってきた。
その知見が今、引っ張りだこという。「北海道から九州まで講習で飛び回ってます」。このところの肥料高騰がきっかけだ。有機農法を始めて15年、時代が追いついてきた。
ハゼリソウにヘアリーベッチ。農協や行政が主体になって緑肥に取り組む現場に、期せずして相次いで立ち会った。農法はここでも確かに時代の転換点にある。