海外で漆器のプロモーション
「コロナ禍で、これまでしていなかった『事業提案』ができるようになった。仕事の可能性が広がった」。こう語るのはデザイン業・MAG MAG(松本市県2)の創業者で社長の菊池伸さん(46)だ。自身も含め、周囲の関わる人たちを幸せにする─がモットーだ。
2020年2月、東京ビッグサイトで開かれたギフトショー。そのイベントで、ブースのデザインや施工を手がけて以降、コロナ禍の拡大で、「仕事がぱたっとなくなった」。
そんな時に声をかけてくれたのが取引のあった地元のホテル業関係者。「(コロナ禍で創設された)国の補助金を使ってワーケーションの仕組み作りと、インカムを使ったネイチャーガイドの事業化をやってみないか」
これまで主にやってきたのは、出来上がった製品の意匠などを整えて、いかに売れるようにするかなど「末端の仕事」。しかし、提案されたのは事業開発や商品開発などを「一から一緒にできる仕事」。しかも資金調達もするので、「それも強みになった」と手応えをつかんだ。
それに伴い、「大都市のでかい仕事」に向いていた目線も地元に向くようになり「自分が生まれた場所の人たちを幸せにしたい」と考え方も変わった。
現在、力を入れているのが、塩尻市奈良井の奈良井宿と同市木曽平沢の漆器。海外の富裕層をターゲットに、漆器を「世界に一つだけのラグジュアリーなもの」として認知度を上げ、その作り手である職人を訪ねて、漆器作りも体験できる旅行の商品化だ。
そのプロモーション第1弾として、9月にフランス・パリで開かれる世界最高峰のインテリアとデザインの見本市「メゾン・エ・オブジェ」に、1個百万円以上の値段を付けたテーブルとスツールを持ち込むことにしている。
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松本市出身。東京工芸大で写真を学んだ。卒業後、地元に戻り、広告代理店に就職し、営業を担当。印刷会社に転職してからも営業を担当した。
40歳になったのを機に、「デザインやプロモーションが持つ力を突き詰めたかった」と、デザイナーと2人で独立し、MAG MAGを設立した。
「地球規模で考え、足元から行動せよ」を意味する「シンク・グローバリー、アクト・ローカリー」という標語を肝に銘じる。
「他とは競合しない、自分にしかできないものを考え、自分の手の届く人たちを幸せにしたい」
【プロフィル】
きくち・しん 1977年、松本市和田出身。松本美須々ケ丘高、東京工芸大卒。2018年1月、MAG MAG設立。21年4月、社長就任。同市入山辺在住。