新米の価格が上がったという。農水省の17日の発表によると、JAなど出荷業者と卸売業者が9月に交わした契約価格が、今年産は昨年より10%上がった。うちのも該当する長野産コシヒカリは5%高という。
いいニュースだと思った。だが、立場が変われば、見方は変わる。18日付信毎には、「コメ離れに拍車」という見出しの解説記事が載った。消費者にとって高くなれば敬遠したくなるのは当然か。
とはいえ、当の記事も触れていたが、今年の新米が高くなったのは、肥料など生産コストの上昇を反映したという面がある。高くなった分、もうけが増えるわけではない。これは、一農業従事者の実感とも合う。
もうからない上に食べてもらえなくなるのなら、どうすればいいのか?意見を聞きたくて頭に浮かんだのが、信州大経営大学院の元特任教授、茂木信太郎さんの顔だった。
茂木さんは先月、食品関連企業4社でつくる「信州食品事業者連携協議会」が開いた公開講座で、コメの消費動向やマーケティングについて話した。コメの需要は将来も先細ると指摘する内容に、私は「じゃあ個人農家はどうすればいいのか」と思った。茂木さんの答えは「頑張らなくていいです」。その時は時間がなくて深められなかったやりとりを、今回改めてしたくなったのだ。
電話口で茂木さんは「問題は農家の経営なのか、農地維持なのか、国の自給率なのか。そこが一般的にごっちゃになっている」と話した。その上で、兼業農家のコメ作りの場合、身内に送る、農地を守るといった理由が多いと指摘。「それは経営行為ではない。なら、今のままで頑張らなくていいのでは」。ドライな分析だが、なるほどと思わせた。
私がUターン組だと明かすと、「何のために継ぐのか。農業をしたいのか、地域の環境を守りたいのか、教育のためか。それが大事なのでは」と、家業への向き合い方を整理してくれた。米価に一喜一憂しても始まらないのだ。
【記者兼農家のUターンto農】#124 米価
- 2023/10/28
- 記者兼農家のUターンto農