【記者兼農家のUターンto農】#125 コメ消費

加工が可能性を広げる

何のために農業を継ぐのか?信州大経営大学院の茂木信太郎・元特任教授の、そんな問いを前回の記事で紹介した。私の場合、スパッと答えられない。
もし、企業の入社試験のように、実家の農業経営に携わるに当たって志望動機を求められたのであれば、考え抜いただろう。
実際は、「家業だから」「長男だから」といった暗黙の了解でここにいる。当分は兼業で親が健在ということもあって、理由を深めないで済んでいる。
そんな時、前回の記事で触れた「信州食品事業者連携協議会」が業者向けの食品展示会に参加すると知った。
同協議会は、マイパール長野(安曇野市)、豊炊飯(松本市)、おむすびころりん本舗(安曇野市)、ナガレイ(長野市)がメンバー。ざっくり言えば、コメを集荷し、炊き、加工し、流通させる企業の集まりだ。
そういえば、コメの売られ方を考えたことがあまりない。10月25日、展示会場の安曇野スイス村サンモリッツに取材に行った。
展示会はナガレイなどが開いた。出品者100社ほどのうち県内が20社。果樹や畜産加工品、漬物といった、彩り豊かな信州の品々の中で、地味なコメは埋もれがちだった。
それでも見ていると、次々と来場者が手に取っていく品があった。冷凍いなりずしという加工品だった。食品ロスが出ず、少ないロットから扱える利点があるという。もちろん、おいしいことが前提。数年前に開発し、スーパーなどから引き合いが強いという。
コメ全体の消費は先細りが予想されるが、外食、中食向けの加工品は増える見込みがある。「ニーズを掘り起こすきっかけをつくりたい」と豊炊飯の小山哲生社長は話した。
そのまま食べられるフリーズドライのコメも来場者の関心を引いていた。冷凍いなりと合わせ、防災にも役立てたいという。
稲刈りしながら考えていたのは、炊きたての新米のおいしさだけだった。想定外の食べられ方に触れて、コメを見る視野が広がり、作る理由が深まった。