芽吹く緑に気持ちが上がる
芽が出た。2月下旬、今年初めてリーフレタスの緑を目にした。白い発泡スチロールトレーに詰めた黒い土に、小さな双葉が顔をのぞかせた。
毎年のことだから当然とも言えるけれど、緑が一斉に芽吹く光景に、「よかった」と安どした。
今年の冬は寒かった。実家では、例年通り、リーフの種まきを2月中旬に始めた。前後に大雪に見舞われ、最高気温が零度に届かない日が続いた。
もちろん苗床は、温暖な環境下に置かれる。うちの場合は、ビニールハウス。ただ、それだけでは、15~20度というレタスの発芽適温にはならない。
両親によると、適温にする工夫を農家それぞれがしているという。「『秘伝』もあるのだぞ」などと真顔で言われると、なかなかここでは書きにくい。いずれにしても、電熱器とかストーブとか暖房機材を使っていることが多い。光熱費がかかる。
今冬は、エネルギー価格が上がった。原油高騰のおかげで、油類も電気も高くなった。それが、一般家庭の家計だけなく、農家が工夫を凝らす作物の育成環境にも影響する。
折しも、ロシアがウクライナに侵攻した。さらにエネルギーが高騰する懸念が報じられている。戦禍の痛ましいニュースに、さらに気が重くなる要素が加わった。戦争は命の営みに反するとつくづく思う。そう考えると、寒中のハウスで一斉に芽を出し、命を咲かせ始めたリーフに心が和らぐ。
そんな世情には関係なくリーフは育つ。「暑くしすぎてもダメなんだよなあ」と父。例えば、ひょろ長い苗になってしまう。「失敗ばかりだ」。ぶつぶつ言いながら父は楽しそうでもある。一つ一つの工夫が目の前に表れる面白さがあるのだろう。何はともあれ、成長を見ると気持ちが上がる。
農業に苗半作(なえはんさく)という格言がある。「苗の出来で作柄の半分が決まる」という。大事で、難しくて、面白い苗作りが今年も始まった。